[世界連邦日本国会委員会・グローバルガバナンス推進委員会] 軍縮を担当してきた三人の外交官、阿部信泰、美根慶樹、小溝康義大使そして源田孝元空将補・防衛大学校教授が、日本が軍拡競争の再拡大を防止する上で主導的な役割を果たすことが緊急に必要であると指摘 (リポーター渡邉優紀)(18/09/2019)

衆議院第一議員会館の会議室での意見交換会


中川正春世界連邦国会委員会事務総長に見解を説明する元国連事務次長阿部信泰氏

中川正春世界連邦国会委員会事務総長

 2019年9月18日に衆議院議員会館で開催されたグローバルガバナンス推進委員会の意見交換会の冒頭の挨拶で、世界連邦日本国会委員会の事務総長で衆議院議員の中川正春先生が超党派で世界連邦の理想に向かって、出来ることは何かを模索していると述べた。そしてこの議員連盟を今後しっかり発展させて、日本の中で、一つのメインストリーム、選択肢としてなんとかセットアップしていきたいとの願望を示唆した。その為に、日本のトップリーダーの衆智を集めて、諮問することの意義を示唆した。本来なら気候変動、とんでもない台風の襲来、あるいは食料を中心とした作物、海流の変化、などグローバルな形で気候変動を捉えなければならない、そして今日の課題になっている軍縮、また、金融政策でグローバル的な観点から検討しなくてはならないが、今の経済の不均衡など基本が崩れてきている状況であるとの見解を示した。どれを取ってみても世界の国々が協力して対処していかなければならない人類の喫緊の課題が多々ありが、世界の国々でナショナリズム的な方向で政治が走っているということに関して危機感を持っていると述べた。中道かつグローバルで行こうとしている勢力が、選挙でことごとく負けてしまっており、日本でもつまずいているので、非常に忸怩たる思いを示した。そんな情勢の中で20-30年先の人類を見据えて日本からしっかりと情報が発信できるように、このグローバルガバナンス推進委員会の中で作っていただけることを願っており、学問的なことだけでなく政治的なこともあわせて、出席者のご意見を聞く所存であると述べた。

 参考人として招待された4人の専門家で、まずは元国連事務次長・スイス大使・ハーバード大学シニアフェローの阿部信泰氏が見解を述べた。軍拡競争を激化させないため中国を含めた形で中距離ミサイルの規制・抑制について話し合い合意を形成することが緊急の課題であると指摘し、2011年に結ばれた戦略核兵器条約(START)が2021年2月に期限が切れることに鑑み、米国に留まり、この条約の延長を薦めるべきであると説いた。そして日本は尚且つ米国が包括的核実験禁止から署名を撤回しないよう米国を説得する必要性があると指摘した。

阿部信泰氏

 阿部信泰氏は、広島と長崎の悲劇を経験し、ビキニ環礁での核実験に苦しんだ国として、日本が道徳的責任を行使する必要性を強調した。阿部信泰氏の発言要旨は以下の通りである。

  • INF条約(中距離核戦力全廃条約1988年)は米露間で射程500キロ~5,500キロの地上配備中距離ミサイルの保有配備を禁止した冷戦時代の重要な核軍備管理条約。米国がロシアによる条約違反と条約の規制対象外の中国のミサイル脅威の増大を理由に8月2日に条約から脱退。(ロシアも米国が遵守しない以上、自らも遵守しないとの立場。)米国が早速、地上発射型トマホーク巡航ミサイルの発射実験。国防長官が中距離ミサイルの前線配備希望を表明。可能性:日本・韓国・台湾・フィリピン・オーストラリア。こうした動きが地域の軍拡競争を激化させないため中国を含めた形で中距離ミサイルの規制・抑制について話し合い合意を形成することが緊急の課題。
  • 新START条約(新戦略核兵器制限条約2011年):米露の配備戦略核弾頭数を各々1,550発に制限。2021年2月に失効。5年延長を選べる規定。トランプ政権内では延長しない意見が強い。ロシアは延長の用意ありとしているが、いろいろ条件があり、延長をするためには今から交渉を始める必要があり、時間がない。米国に唯一残るこの核軍備管理条約の延長を薦めるべき。
  • CTBT(包括的核実験禁止条約1996年署名開放)は特定44か国の批准を必要とする厳しい発効要件のためいまだ未発効。ただ、核実験探知網はほぼ完成。残る発効要件国は8か国(米、中、インド、パキスタン、イラン、イスラエル、エジプト、北朝鮮)。最近、米国内で署名を取り消して核実験再開の選択肢を残すべきだとの意見が勢い。筆頭の米国が署名撤回すれば深刻な打撃。広島・長崎を経験し、ビキニで核実験被害の経験もある日本の声が大事。是非、米国に発言するべき。

 阿部氏の後に元ユーゴスラビア大使・内閣外政審議室審議官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏が発言し、その見解の要旨は以下の通りであります。

美根慶樹大使の説明を聞く長谷川祐弘グローバルガバナンス推進委員会座長

 2020年のNPT再検討会議に向けて軍縮の機運を高める努力が続けられている。2017年11月には「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」の第1回会合が広島で開催された。これまでの賢人会議における議論を総括する報告書が取りまとめられる予定になっている。

 2010年に立ち上げられた軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)はその後も会合が重ねられ2017年9月、第9回会合が広島で行われた。

 2017年7月、採択された核兵器禁止条約は核の全廃を条約上の義務とする画期的な前進として喜ばれたが、問題は少なくない。とくに、核兵器の非人道性については、その重要性を軽視する結果になっている。同条約の本文は法的、技術的、医療的な事柄についての規定に充てられ、核兵器の非人道性は前文で一般的、原則的なことが言及されているに過ぎない。

 2015年NPT再検討会議のフェルーキ議長の最終文書案にあった「あらゆる核兵器の使用による壊滅的で非人道的な結末に関する深い懸念が,核軍縮分野における努力を下支えし続けるべき「鍵となる要素」であること,また,こうした結末を知ることは,核兵器のない世界に向けた「すべての国々」による努力に緊急性を与えるべきである」は一つの参考となる。核兵器禁止条約の前文より一歩進んでいる。

 今後、日本は非人道性に関する国際会議をあらたに主催すべきであり、その意義は次の通りである。

  1. 国際的な関心を核の非人道性に向ける(取り戻す)。
  2. 非人道性は白黒的に、理解する、あるいは理解しない問題でなく、程度問題である。理解しているようでも本当のことは分かっていない人が大勢いる。広島の平和記念資料館や長崎の原爆資料館を訪れてはじめて理解する人も少なくない。
  3. 核の抑止力と非人道性の関連性を追求することは重要である。とくに、非人道性の理解を広め、また、深めることは核の使用を抑止する効果があるのではないか。
  4. そのほか、ドローンによる攻撃が大規模化しており、いつか核兵器も搭載するようになる危険がある。日本はその規制を国際的に働きかけるべきである。

小溝康義元ウィーン政府代表部大使

 第三番目に発言された元ウィーン政府代表部大使・IAEA事務局長特別補佐官等で賢人会議委員の小溝康義氏は核兵器がなくならないのは政治意志の欠如であると指摘し、平和首長会議に参加した経験から、核兵器をなくすために、TPNW推進する側と安全保障環境を重視する側の立場を超えた対話が不可欠であり、核廃絶の実現には、為政者のリーダーシップと幅広い市民社会の協働が必要だと述べた。

小溝康義大使の発言内容は以下の通りです。

  1. 昨年及び本年、世界終末時計が真夜中(世界の破滅)まで2分を示した。米ソ核戦争が危惧された1953年と並ぶ危機認識。核兵器の脅威と気候変動という2つの地球規模問題への指導者の対応欠如が主要原因。この2大問題の解決には、国籍や文化、宗教、人種の違いを超えて協力できるかという共通の課題が横たわっている。グローバリゼーションが進む一方、これを支える人類の一体感は未発達。このため、相互不信、分断化、対立、紛争が目立つのが残念な現状。近年、排他的・閉鎖的な傾向も強まり、そのような不安定な世界に今も約14,000の核兵器が存在する。そして信用できない相手との武力衝突の危険を圧倒的な脅しでしのごうとするのが「核抑止」にほかならない。核兵器は意図せずとも事故や誤算により暴発する恐れがあり、テロリストによる使用も脅威だ。核抑止が破たんすれば、受け入れがたい悲劇が生まれる。また、核抑止という考え方には伝染性があり、核兵器拡散の危険も伴う。核抑止は、長続きする平和の基礎には到底なり得ない。
  2. 平和首長会議は、「安全で活力のある都市を実現する」自治体首長の責任感から、被爆者の切実な願いを重視し、「核兵器のない平和な世界の実現」を目指す。このための重要な措置として、核兵器禁止条約を推進してきた。法的禁止が抜本的な政策転換の出発点だからだ。さらに、平和首長会議は、核兵器のない平和な世界の実現には、「私たち」と「あの人たち」を対立するものととらえて、私たちを守るためには、あの人たちはどうなっても構わないという考え方自体を変える必要があると考える。それこそが核抑止の考えに潜む病根だからだ。そして核廃絶には、核兵器の非人道性を実体験で知る広島・長崎の被爆者の声を聴くことが不可欠だ。被爆者は、筆舌に尽くしがたい被爆の惨状を経験したからこそ、「こんな思いをほかの誰にもさせてはならない。」という深い人道的信念を持ち、高齢になった今も、核兵器のない平和な世界の実現を訴え続けている。
  3. 核兵器がなくならないのは政治意志の欠如によるが、背景として、特に重要な点は2つある。第1に、原子雲の下で起こった計り知れない人間の悲劇・「核兵器の非人道性」と「核兵器が実際に使われる危険」が、国際社会の常識になっていないこと。第2に、核抑止という考え方が核保有を正当化。核兵器廃絶には、核抑止政策の転換が不可欠。
  4. 大国の反対にもかかわらず2017年7月、核兵器禁止条約(TPNW)が国連総会の下の条約交渉会議で採択された理由は、一言で言えば、多くの非核兵器国と幅広い市民グループが、「核兵器の非人道性」と「使われる危険」に気づいて行動を起こしたためだ。核兵器の非人道性と事故や誤算で使われる危険の認識の高まりが育んだ非核兵器国の間の核軍縮交渉への当事者意識は、核兵器の速やかな法的禁止を求める動きに直結した。TPNWは、軍縮条約の系譜に属するが、それ以上に、人権・ 人道の観点から、人類の安全保障を目指すものだ。この条約が核兵器の禁止を核兵器保有国だけに任せず、全世界が取り組む課題ととらえるのはそのためだ。なお、TPNWは、禁止の法的宣言を優先しているが、禁止の実効性確保のため、将来核兵器国も交えて核廃絶の「検証措置」規定などを具体化することも想定している(前文、4条、8条等参照)。
  5. 今何をすべきか。

       (1)平和首長会議は、核兵器をなくすために、TPNW推進する側と安全保障環境を重視する側の立場を超えた対話が不可欠だと考える。相互不信を相互理解、相互協力へと変えていく粘り強い努力なしに、根本的な解決はできないからだ。また、核軍縮措置を対話によって進めることは、それ自体信頼醸成措置であり、相互理解、相互協力の促進に資する。共通点を探る手がかりとして、NPT第6条に定める核軍縮の誠実交渉義務を基礎に立場を超えて対話し、知恵を出しあい、まずは実行可能な核軍縮措置を実行に移してもらいたい。

       (2)為政者のリーダーシップと市民社会の幅広い協調による「対立的安全保障」から「協調的安全保障」への転換が最重要の長期的課題。核抑止を超克するためには、相互不信を相互理解に変える努力が必要だ。北朝鮮やウクライナの問題も「対決的安全保障」を「協調的安全保障」へと転換する具体例となりうる。核兵器国の責任ある指導者はこの事実を理解するはずだ。過去の核軍縮は、国際緊張の極まる中、違いを超えて歩み寄る為政者のリーダーシップで実現されてきた歴史(例えば、ケネディとフルシチョフが先導した部分的核実験禁止条約。レーガンとゴルバチョフが合意したINF条約。)があるからだ。
  6. 6.日本が果たすべき役割

       (1)異なる立場の国々の間の対話の促進

    ●NPT第6条の「核軍縮誠実交渉義務」を議論の基盤に。(賢人会議は評価できる。)
    ●地方自治体の国際組織「平和首長会議」が「核兵器のない世界」および「安全で活力のある都市」の実現に対話を重視して超党派で取り組んでいる活動や「Faith Based Organization」が宗派の違いを超えて、現実の国際社会問題に人道的、倫理的観点から共通点を探りつつ加k兵器のない世界を目指す活動などを支持。
    ●日本国憲法前文および第9条の普遍的ビジョンを重視し、これに具体的な政策的肉付けを推進。日米の連携が日本の安全保障にとって不可欠であることを踏まえれば、なおさら日米友好関係の長期的安定の維持を図るためにも、緊密な日米間対話に加え、ロシア、中国、朝鮮半島、ASEAN諸国等とも対話を重ね、憲法第9条のビジョンを国際社会の現実政治の中に展開しうるようにするための独自のアイデア、提言を国際的に発信することが重要。

       (2)今できることを実施

    ●被爆地広島・長崎に為政者、未来を担う青少年等様々な人々の訪問を促進し、核兵器のない世界の必要性を実感してもらうことが、一層の核軍縮推進の基礎。
    ●核軍縮のための検証措置を具体化する国際努力に貢献。
    ●違いを尊重しつつ対話により共通価値・共通目標を創出・推進するグローバルコミュニティのモデルは足元から(自治体や市民団体による町おこし、青少年対策、高齢者支援等の成功例を発掘・プロモート)。

 小溝氏は、結びとして核廃絶の実現には、為政者のリーダーシップと幅広い市民社会の協働が必要だ。為政者のリーダーシップを主導するのは立場を超えた幅広い市民社会の声であり、その原動力こそ被爆者の被爆証言と平和への訴えだ。

原田孝元空将補で防衛大学校教授

 次に発言された元空将補で防衛大学校教授の源田孝氏はITが進化するにしたがって「人工頭脳を持った空中飛翔兵器」や「人間の形をしたロボット」が核兵器を持つ可能性があることを指摘して、そういう恐怖がありなかで、核軍縮のモデルとしての防衛省・自衛隊が実践してきた、「仮想敵を想定しない」、「専守防衛政策を採用する」、「持続的な経済成長が可能となるように防衛費を設定する」、「組織の効率化によって戦力は維持するが兵力は削減する」という防衛政策は、軍縮の一つのモデルとなるのではないか示唆した。

1. 今日の核兵器運搬装置
 ITがこのまま進めば、「人工頭脳を持った空中飛翔兵器」、「人間の形をしたロボット」が核兵器を持つ、そういう恐怖があり、それがどこでも出現する可能性がある。
自立機動するビークルの特色は、第一は「打ち放し性(fire & forget)」。第二は「低価格(low cost)」。第三は「多機能性(multiple)」。第四は「精密性(precision)」である。市場においては、これらはロボット、通常はドローンと呼ばれる。その次が、クルーズミサイルで、海の彼方から飛翔し、どこでも命中する。
これらの兵器は、政治的目標を達成するよりも、経済目標を達成する方が実は容易である。一発で世界経済に大破綻をもたらす。一発のミサイルもそれは戦略的であるというのが今日の現状である。

 将来の戦場では無人機同士が戦う無人の戦場になるということで、その中で戦術核兵器が使われる可能性がある。

2. 軍縮のモデルとしての自衛隊
 国際条約を守る国は、先進国や限定された国であって、それ以外の国は条約そのものを認識していないことがある。このような状態で、日本は憲法9条の平和理念をもっとアピールすべきである。日本は、世界に先駆けて脅威に関わらず軍縮している。結果として、日本は戦後70年一度も戦争をしていない。このことは、一人の自衛官も負傷も戦死もしていないことであり、日本の防衛政策は合っていたということになる。

 我が国の防衛政策の特色は、次のとおり。

(1)シビリアンコントロール
 自衛隊の指揮権は国民によって選出された政治家である総理大臣が掌理するというシビリアンコントロール(文民統制)の理念は、主権在民という民主主義の基本であり、我が国の防衛政策の中核をなす考え方である。

(2)専守防衛政策
 我が国が「防衛に徹し、侵略を受けた場合に対処する」専守防衛政策を採用した背景には、日本国憲法の平和の理念があった。そして自衛隊は、特定の仮想敵を想定としない防衛力となった。日本は、専守防衛政策を世に問うたことにより、他国を侵略しないという平和国家のイメージが広まった。

(3)防衛費GNP比1パーセント
 1976年に三木内閣が「防衛費をGNP1パーセント以下に抑える」政策を決定した。GNP比1パーセント枠は、国際的には102番の低い数値であったが、歴代内閣はこの政策を継承した。この政策により、日本はGNPの99パーセントを経済分野に投入し、経済大国となった。経済大国となった結果、円高が進み、今日、日本の防衛費は、ドル換算で世界第8位となった。この事実は、日本政府の英知といってよいであろう。

(4)兵力の削減
 陸上自衛隊の定員は、発足当時18万人であったが、2016年度は15万人であり、この間3万人を削減した。これは、陸上自衛隊が、ITの広範な採用、業務のアウトソーシング、組織の効率化、統合運用によるシナジー効果によって兵力を削減し、「量より質の組織」へと転換を図った結果である。高額の兵器を削減することには困難が伴うが、組織の効率化によって「量より質の組織」へと転換し、戦力を維持しつつ兵力を削減することは可能ではないか。

(5)侵略の抑止
 専守防衛政策から導かれる自衛隊の存在意義は、「侵略の抑止」である。自衛隊が精強な存在であること、そして、日米同盟による米軍の存在と相まって侵略を未然に抑止してきた。自衛隊は、侵略の抑止のために存在しているのである。非核軽武装国家である日本が、1952年の主権回復以来67年間一度も外国から侵略されなかったことは、日本の防衛政策が適切で、抑止が良く機能していたことの証左である。
以上のように、防衛省・自衛隊が実践してきた、「仮想敵を想定しない」、「専守防衛政策を採用する」、「持続的な経済成長が可能となるように防衛費を設定する」、「組織の効率化によって戦力は維持するが兵力は削減する」という防衛政策は、軍縮の一つのモデルとなるのではないか。

井上健元国連民主化ガバナンス部長

 元国連民主化ガバナンス部長で現在はJICAシニアアドバイザーである井上健氏は、最近の核兵器は小型化したうえで精密誘導によって軍事目的に限定した使用も可能であると聞いているが、この場合は、民間人を対象として核兵器が使われた場合の非人道性という批判が当てはまらないのではないかと質問した。また、今後の軍縮の進め方について以下のようなコメントと提言を行った。核の抑止力は永遠には続かないとしても過去70年以上続いてきたわけで、今後も核保有国の間の相互不信がなくならない限り必要悪として残るのではないか。相互不信をなくすためには究極的には、本研究会が目指している世界連邦を作るしかないが、それが遠い道のりであるならば、当面は国家間の信頼醸成を積み上げていくしかない。そのためには、日本がイニシアティブをとって、①通常兵器の軍縮を進める、②全世界で学校教育・市民教育を通じて核兵器の非人道性を人々に知らせ、核兵器廃絶を世界共通の規範とする、③企業に対してESG(環境・社会・ガバナンス)にD(軍縮)を加えたESGD投資を訴え、軍拡や核兵器に関連する企業の影響力を抑える、④世界連邦につながる組織として、すべての核保有国を含むアジアにおける安全保障の枠組みを構築し、相互依存・相互信頼に基づいたアジア連合のような地域統合組織を作り上げることを目指す。

猪又忠徳元コスタリカ大使


 元コスタリカ大使等で長崎大学グローバル連携機構アドヴァイザーの猪又忠徳氏は軍備撤廃の範囲は、グテーレス事務総長が昨年6月に発表したNew Agenda for Development で主張したように国家のみならず人の安全を脅かす在来及び新型兵器をも含むべきである。紛争の根本原因の除去によって予防する新たなアプローチをとれば、軍備撤廃は、核兵器に限らず、通常兵器、銃器,小火器のみならず生物・化学兵器の撤廃に加えて、PKOの現場でのDDR、ドローンやAIに依拠したLAWS (Lethal Autonomous Weapons System)などの新型の軍備の撤廃も扱うべきである。

 グローバリゼーションの深化による国境を越えた各国国民の交流/交易と世界各地の顕著な都市化の中で、戦火を交えることは即座に甚大な人的及び経済的損害を生じる。追及すべき究極の安全保障は、対決と相互不信及び勢力均衡による国家の安全ではなく人の安全に立った防衛システムの非軍事化である。

 軍備撤廃を進める不可欠の条件は、戦争や福島やチェルノビルの原発災害のような人的諸災害が物理的被害のみならず人びとやコミュニテイの生業の喪失のもたらす非人道性を包含することを非国家主体間で相互に理解しあうことである。そのため、国連憲章や地球憲章が唱道する平和のカルチャーを人びとの間で育むことが肝要である。
軍事専門家やテクノクラートによる透明性のない安全保障は、国益を基軸に据える結果、普遍的な平和を追及するグローバルガバナンスを阻害すると述べた。

 その他に元空将補で防衛大学校教授の源田孝氏、元国連事務次長補で国連協会理事の功刀達朗教授と早稲田大学准教授で元国連軍縮研究所・ILO危機対応専門官の小山淑子氏が発言された。


 長谷川祐弘座長が、結論として、気候変動も軍縮問題も、同じように私たち人類全体の課題であるということを述べた。美根大使は、核兵器は非人道的なものであって、止めなければならない、小溝大使は、核兵器と気象変動、猪俣先生も同じようにおっしゃっていて、阿部大使は、ここで日本ができることはあるか、問われましたが、軍縮も、気候変動も、その原因を突き止めてみると、兵器とか台風といった物理的なものではなく、私たち人間が作ったものであるということです。ですから、これらの地球規模的な課題にどう対処すべきかは、げんざいの国家中心主義からグローバルガバナンスがより効果的に施行される世界的な人間社会を構築していくことであります。日本などは明治維新で廃藩置県を成し遂げ、現在は安定しれ社会的に平等で公正な国家共同体を形成したと言えます。この経験をもとにして、世界に向かって言えるのではないかと思いますと述べた。

 最後に谷本真邦グローバルガバナンス推進委員会の事務局長が締めくくりの言葉を述べた。