[Seminar] Current Transformation in Myanmar (Ms. Ryoko Iizuka) (29th May 2012)



2012年度法政大学法学部国際政治学科
長谷川祐弘ゼミナール

■ 日 時 : 2012年4月17日(火)
■ 場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見坂校舎 F310教室
■ 作成者 : 吉田 翔悟   法政大学法学部国際政治学科3年

*********************************************

<4限目>
■ 内 容 : 文献精読『国際紛争』(5)
■ 発表者 : 第9章 河瀬 雄飛   (人権班)      法政大学法学部国際政治学科2年
              横田 晃平   (平和構築班)   法政大学法学部国際政治学科2年
              中仙道 舞   (開発経済班)   法政大学法学部国際政治学科3年
              谷田部 紗也加 (平和構築班)    法政大学法学部国際政治学科2年
■ 使用文献 : ジョセフ・S・ナイ・ジュニア著 『国際紛争』 P.369~P.407

 第4時限では、『国際紛争』第9章について、各サブゼミ合同でプレゼンを行った。平和構築班からは横田晃平と谷田部紗也加、開発経済班からは中仙道舞、人権班からは河瀬雄飛がそれぞれ発表を担当した。
 まず河瀬が、国際社会が冷戦後に直面した問題に脱却すべく台頭した5つの新しい思想、すなわち、世界連邦主義(国家が自ら軍備放棄に同意し、世界政府の権限をある程度受け容れるという構想)、機能主義(分野別の争点に対応する国際機関を創造してグローバル・イシューに対処する真の政策決定力を持てば、国家が争う理由はなくなるという主張)、地域主義(コストと利益の計算に照らして、国家の完全な独立にとらわれるより、協力をする方が有利だとして、地域統合を促進する立場)、環境主義(資源不足に伴う相互依存によって、平和・正義・環境の安定に関する国際規範が確立され、新しい世界秩序が形成されるであろうという構想)、そしてサイバー封建主義(分権的な組織や仮想共同体がインターネット上で発展することで、それらが国境を越えて独自の統治方法を発展させていくだろうという主張)について説明した。その上で、情報革命によって世界政治の在り方が変化する一方で、依然として国家が物理的安全・経済的繁栄・共同体アイデンティティの保障を担っていることから、国民国家の存在は決して時代遅れではないという点を強調した。
 次に横田が、フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』とサミュエル・ハンティントンの『文明の衝突』のそれぞれの主張を対比して整理した。フクヤマの「西側の自由民主主義が人類の政治の最終形態になった」という言葉と、ハンティントンの「新しい世界の紛争の根本的原因は文化的なものである」という言葉をそれぞれ紹介した上で、両者共に冷戦後の世界を一つのパターンへと単純化させたに過ぎず、今日の諸国家における文化的・経済力的な多様性を鑑みれば、まだ説明しきれていない部分が多すぎると指摘した。
 そして中仙道が、現在の国家が直面している安全保障上の脅威の多くが脱国家的性格を帯びているとして、その例に「脱国家的テロリズム」(抑止が十分に機能しない脱国家的テロリストによる、大量破壊兵器(Weapons of Mass Destruction: WMD)獲得及び使用の脅威)、「サイバー戦争」(政治・経済・社会インフラに対する、ハッカー攻撃の脅威)、「世界的流行病」(伝染性疾患の急速かつ深刻な蔓延に対する脅威)、「気候変動」(地球温暖化による資源獲得競争と、それに伴う貧困拡大や国内外での紛争勃発に対する脅威)の4点を挙げた。
 最後に谷田部が、変化しつつある世界での国際政治を理解するツールとして、リアリズム・リベラリズム・コンストラクティヴィズムの3つの理論を改めて紹介し、本書の内容全体を振り返った。

<5限目>
■ テーマ : ミャンマーにおける現在の変容
■ 講義者 : 飯塚 涼子 様   元UNDPミャンマー事務所 プログラム・マネージャー

 第5時限では、元UNDPミャンマー事務所 プログラム・マネージャーの飯塚涼子氏より、「ミャンマーにおける現在の変容」についてご講義頂いた。
 飯塚氏はまず、1962年の軍政開始から、民政移管された今日までのミャンマーの略史を簡単に振り返りつつ、ミャンマーが2011年3月に民政移管されたことによって生じた政治的・経済的変化について、過去と現在を対比させながら紹介し、民政移管によって、自由民主主義が大幅に認められるようになったと強調した。また、自由民主主義が導入されたばかりのミャンマーには、まだまだ課題が多いと指摘した。すなわち主に、政府は真の民主主義を追究出来るのか、人々のニーズをきちんと汲み取れるのか、地方分権を推進することが出来るのかという問題である。
 そして、民政移管に伴い、国連は次の4つの戦略的優先事項を掲げて支援を行うようになった点を紹介された。第一に、農業開発や雇用創出を含めた包括的な成長の促進。第二に、質の高い行政サービスの利用機会の拡大。第三に、自然災害や気候変動に対する被害リスク軽減。そして第四に、グッド・ガバナンスの促進及び民主的な機関や権利の強化である。とりわけ、グッド・ガバナンスに関しては、テイン・セイン大統領が就任演説の際に「新政府は、既存の(非民主主義的な)法律を修正もしくは廃止し、基本的人権を保障する為の新たな法律を制定する」、また「民主主義はグッド・ガバナンスと密接に連動しながら促進されるべきである」などと述べるなど、今後のミャンマーのオーナーシップに期待が出来る。
 最後に飯塚氏は、ミャンマーの更なる不可逆的な改革を期待すると同時に、今こそ国際社会やNGOなどが、ミャンマーに対して真剣な協調と支援を行う時であると、強く訴えた。




飯塚 涼子   (いいづか りょうこ)

カナダ ウォータールー大学環境学部(都市地域計画)を卒業後、米国 School for International Training, International and Intercultural Management にて修士号を取得。バングラデッシュ、ネパール、インドの現地NGOでインターンをした後、JICAガーナ事務所に短期アシスタントとして、ジュネーブILO本部にコンサルタントとしてそれぞれ勤務。2004年度にJPO試験に合格し、2006年より2010年までUNDPミャンマー事務所でプログラム・マネージャーを務める。専門分野は参加型村落開発、女性のエンパワーメント、マイクロクレジットなど。