この度の東日本大地震、津波、そして福島原子力発電所の破損によってもたらされた災害は、第二次世界大戦後65年間にわたり最も厳しい危機だと、菅直人総理は宣言された。そして、日本人は今回の大地震と津波に対しても、国民が力を合わせることで、危機を乗り越えていくことが出来ると、確信している旨を述べられた。
福島原発に関しては、地震と津波により原子炉が停止し、非常用の冷却装置が稼働しなくなった経過を15日に説明され、その後、東京電力、自衛隊、警察、消防庁の方々が、決死の覚悟で、極度な危険を顧みず、全力を奉げてこの問題に取り組んできていると云っている。そして菅総理は、必ずやこの未曾有の問題を克服して、国民が安全で安心した生活が営めるようになれることを確信していると述べている。
これまで、世界各国からは、お見舞いの意と多くの支援の申し出がなされた。それと同時に、フランス、ドイツなどの諸外国の中には、放射性物質の拡散を危惧して、自国民に日本国外への退避を勧告している国がある。これらの国々とは、福島第一原子力発電所での事故が及ぼす人的・環境的・経済的な影響に関しては、日本のみならず、国際社会における「地球規模課題」であるとの問題意識を持って対処していくのが望まれていると思う。国際社会では、既に旧ソ連のチェルノブイリ事故を通じて、このような問題が一国の枠を越えた、広い地域の問題になってきたことを認識してきた。そして、今回の福島原発がもたらした問題は、全世界の指導者と市民にとって、必要なエネルギーを如何にして安全に確保していけるかという、「地球規模課題」であることが再認識されている。
国連では、国民を「保護する責任」は当事国にある旨を強調すると同時に、その国家の政府が自国民を保護する能力がない、あるいはその意志がない場合に、国際社会がその責任を負うことを示唆している。この新たな「地球規模課題」に対処する過程において、主権国家か国際社会のどちらかがその責任を負うという二者選択という概念においては、必ずしも該当しない事が明白となった。当事国家である日本は、日本人のみならず日本におられる外国人の方々の安全を守るために全力を挙げて努力しており、「保護する責任」を果たす能力と意思を充分に持っております。しかしながら、この原子力発電所から発生した未曾有の問題に対して、適切な情報と知識を持っているとは断言できない。他の国々でも、この問題に関しては充分な情報と知識を持ち合わせていないのが現実である。よって、あらゆる情報を共に結集し開示し共有することは、原子力に関する世界の英知と技術を向上させることになるのである。日本政府はこれを「分かち合う責任」として位置づけ、「人間の安全保障」の達成の為に、新たな概念として、国際社会の協力を広く呼びかけることが良いと思う。
この問題意識の下に、日本政府として「福島第1原子力発電所に関する国際緊急対策本部」(International Emergency Response Headquarters on Fukushima Dai-Ichi Nuclear Power Station)を設置することが日本そして国際社会にとってよいと長谷川教授は述べた。既に、数百人もの専門家を送る準備をしているアメリカ合衆国や数人の専門家を送ってきたフランスのみならず、原子力発電を行っている他の国々や、国際原子力機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)などの国際機関からも、専門家に参加してもらうことが最善策である。そして、福島原子力発電所の状態や放射性物質の拡散状況に関して、日本と国際専門家がチームを組んで情報の分析や検証をすることが望ましいと説明された。また、問題解決の為のいかなる対策の可能性も検討し提案してもらい、「地球規模課題」には全世界が一致団結して取り組んでいくべきであるという、日本政府の問題意識を表すことが重要であると力説した。
「国際緊急対策本部」には、日本人が本部長を務め、副本部長にはアメリカ人に務めてもらい、専門家の委員会(Expert Panel)には、既に日本におられる米仏の専門家の他に、G8と中国やインドといった原子力発電を進めている国々や国際機関の専門家に委員となって頂きます。
そして、日本政府として「福島第一原子力発電所に関する国際情報集約分析開示センター」(International Center for Information Collection, Analysis and Dissemination on Fukushima Dai-Ichi Nuclear Power Station)を設立し、収集・分析された情報は、センターが開示し国際緊急対策本部に報告させることが望ましいと思われる。また、今後の人道的な応急対策活動のほかに、復旧・復興など、あらゆる対策に関して自助・共助の果たす役割は極めて大きいことから、日本の政府や地方自治体、そして企業や市民社会団体のみならず、外国からの団体にも対策立案と施行に参加させ、問題解決の為の可能性を共に検討してはよいのではないだろうか。すなわち、福島原子力発電所からの放射線物質の拡散といった「地球規模課題」には全世界が一致団結して取り組んでいくべきであるという問題意識を、日本政府は責任ある国際社会の一員として表明する使命があると信じるところである。(野田悠将・三須純スウネ)