新型コロナウィルス(COVID-19)のパンデミックに関する日本国際平和構築協会 声明文 (25/06/2020)

 新型コロナウィルスの感染拡大と未曾有の影響は、人類社会が運命共同体として克服すべき広範な脆弱性を露呈しました。このパンデミックが、人類の平和と安全に脅威を与えていることを憂慮し、その克服のため、マルチラテラリズムの復権と紛争予防と防災のための新たなグローバル・ガバナンスの構築をめざして、以下のような声明文を発表いたします。


日本国際平和構築協会
新型コロナウィルス(COVID-19)のパンデミックに関する
声明文


日本の貢献:マルチラテラリズムの復権と紛争予防と防災のための
新たなグローバル・ガバナンスの構築に向けて



(現状認識と問題提起)
 新型コロナウィルス(COVID-19)によって引き起こされたパンデミックは、世界中で猛威を振るっています。日本では緊急事態宣言が解除されたものの、6月22日現在、世界全体では感染者は約886万人、死亡者は約47万人を超え、なお日々増加しています。この未曾有の危機は、人類社会が運命共同体として克服すべき広範な脆弱性を露呈しました。世界各地の紛争当事者に発せられた国連事務総長の全面停戦の呼びかけは、感染の悪化にもかかわらず、受諾されていません。生活行動の制限、都市封鎖、国境の閉鎖に伴う経済恐慌、失業などは、社会の弱者に並外れた影響を及ぼし、各国間及び各国内の不平等と差別の拡大を通じて、社会の不安とさらなる暴力と紛争の種を育んでいます。私たちは、パンデミックが、人類の平和と安全に脅威を与えていることを憂慮し、この声明文を発表します。

(国際社会が取り組むべき課題)
 新型コロナウイルス禍は、ワクチンが開発され、世界に広くいきわたるまでは、すべての国及び人に差別なく襲い掛かり続けます。その間、人々は、新常態(New Normal)と呼ばれる不可逆な事態への広範な適応を余儀なくされます。パンデミックへの各国・地域およびそれぞれの人々の対応は区々であり、さらなる貧困、疾病及び不平等が増加し、紛争とテロリズムの新たな芽が生まれ、世界の分断が加速することが懸念されます。その背景には、パンデミックを自己の戦局改善に濫用する国家間の狭量な対立・紛争があるのみではなく、人々の安全に不可欠な医療、衛生及びデジタル環境を確保する能力に格差があることは否めません。

 アフリカや南米における脆弱な政情と治安を抱えた国々をはじめ多くの国では、このパンデミックが難民や避難民及び女性、子供、高齢者等の社会的弱者の人命・人権に甚大な影響を及ぼすことが憂慮されます。また、すべての人々のために、将来のパンデミックを防止し、持続可能な環境と開発に依拠した回復力のある豊かな未来を実現するためには、災害からのより良い復興へのグローバルなロードマップが欠如しています。

(グローバルな協力の推進)
 これらの諸課題を解決していくには、グローバルな連携と連帯とマルチラテラリズムの復権が不可欠であり、科学的根拠に基づく合意の形成、包摂的な人間本位の新たなグローバル・ガバナンスを確立しなければなりません。

 具体的には、平和構築の場では、「誰一人取り残さない」人類社会の構築を目的とするSDGsのための2030アジェンダの実施を加速し、紛争の根本的原因を除去し、紛争・災害予防の視点から持続可能な平和構築を図るべきです。そのため、WHOを含む国連システムは、仙台防災枠組みに準拠した紛争と複合災害リスク削減の包括的なシステムワイドな早期警報と予防枠組みを構築する必要があります。その枠組みは、国連防災機関(UNDRR)の防災・減災、国連人道問題調整事務所(OCHA)の人道支援^1、国連持続可能な開発グループ(UNSDG)の持続可能開発システム、国連政治・平和構築局(DPPA)による特別政治ミッションや国連平和活動局(DPO)による平和維持活動(PKO)の戦略計画の縦割りを克服し、統合するものです。

 国連システムがパンデミックのグローバル・ガバナンスの中核となるには、科学的根拠に基づく認識の提供と信頼すべき機関活動の透明性と説明責任を担保しなくてはなりません。このため、各国における徹底した感染・抗体検査によるすべての感染者の把握とその健康状態の調査と、リスク情報の開示、住民への能動的なリスクコミュニケーションの促進に向け、加盟国からの十分な技術的及び財政的支援を確保しなければなりません。また、社会的弱者など少数者の利益を見落とすことなく経済の立て直しを実施しながらも、ワクチンの開発、生産、普及のための国際協力に重点を置くべきです。さらに、今回の経験を活かし将来の危機にそなえるためにも、国際社会全体として、経験を共有することが不可欠です。

(日本の役割)
 日本は、世界中の人々の命と生計をあらゆる紛争や災害から守るための自由で包摂的な安全対策を保障するグローバルな体制を構築するにあたって、応分の役割を果たすべきです。これまで日本は、相手国の国民の草の根レヴェルの目線に立って、政府・市民組織・学術団体・民間企業などが様々な分野において国際協力を進めてきました。これによって築かれてきた国際社会との信頼関係は、市民一人ひとりの自覚と規律が有効な感染症対策の国際的展開に有効です。世界中の国々や地域がパンデミックとの戦いで疲弊し、ともすれば自国のことしか考えられなくなっているいまこそ、日本はグローバルな協力を先導すべきです。特に次世代を担う若者を巻き込んでこのための協力を進めるべきです。

(日本平和構築協会の抱負)
 私たち日本平和構築協会は、実務家および学術専門家の立場から、現下における平和構築の課題とそれが市民にとってもつ意味を広く社会に知らせ、同時に、平和構築を目指す内外の多くのステークホルダーズと協力して新たなグローバル・ガバナンスの構築に向けて包摂的な対話を推進していきます。


2020年6月25日
日本国際平和構築協会



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^1… 3月28日、国連事務総長は、COVID-19 をめぐる国連システムの対応計画GLOBAL HUMANITARIAN RESPONSE PLANをOCHAのグローバルアピールを通じて、唱道した。その最新版(2020年5月7日発出)は63の脆弱国でのWHOを含む国連システム全機関の人道支援活動を網羅している。必要資金は、66.9億ドルであり、緊急段階(2020年4月~12月)でのWFP, UNICEF, UNDPなどの援助に充てられる。このほか、国連政治平和構築局はCOVID-19対策を含む135百万ドルの2020年~2022年の多年度計画を有している (N.B.この部分は、WEBの最終版では埋め込みにする)。