2012年度法政大学法学部国際政治学科
長谷川祐弘ゼミナール
■ 日 時 : 2012年5月8日(火)
■ 場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見校舎 F310教室
■ 作成者 : パク ジウン 法政大学法学部国際政治学科3年
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<4限目>
■ 内 容 : 文献精読『国際紛争』第5章
■ 発表者 : 本多 優子 (人権班) 法政大学国際政治学科2年
■ 使用文献 : ジョセフ・S・ナイ・ジュニア著 『国際紛争』 P.113~P.144
1. 冷戦の始まり
第二次世界大戦後、ヨーロッパは疲弊し、世界はアメリカとソ連の二極体制となった。その結果、冷戦が勃発した。冷戦が異質なものとなった理由として、実際の武力衝突が起きなかったことが挙げられ、その原因は三つの立場から考えることができる。まず、冷戦はソ連が引き起こしたと考える伝統主義者の存在が挙げられる。ソ連の拡張主義的行動により、アメリカは徐々にソ連の脅威に気づいていったという見解である。それに対し修正主義者はアメリカが引き起こしたと考えており、トルーマンの対ソ強硬姿勢やアメリカの資本主義経済の拡張主義的性格が原因だと主張している。また、冷戦はいくつかの事柄が重なって起きたものであり、バランス・オブ・パワーによるものだと考えるポスト修正主義者の見解がある。
2. 冷戦の段階
冷戦初期は、開始期、公然化、高まりの3段階に分けられる。3つ目の高まりの時期には、共産主義化したソ連の支援を受けていた北朝鮮と、アメリカの支援下にあった韓国との間で朝鮮戦争が起き、スターリンの拡張的野心が明らかなものとなった。キューバ・ミサイル危機後、冷戦はデタント(緊張緩和)が生じる新たな段階に入った。アメリカとソ連は話し合いの機会を持ち、デタントが進んでいるように思われたが、長くは続かなかった。その原因はソ連の軍備拡大とアンゴラ・エチオピア・アフガニスタンへの侵攻、アメリカの国際政治の変化にある。しかしこの対立は朝鮮戦争とは異なり、米ソ間で常に接触があったため、軍備と核兵器管理について議論がなされていた。
3. 冷戦の終結
冷戦の終結は米ソによるヨーロッパの分断と深く関わっており、ヨーロッパの分断がベルリンの壁崩壊によって解消されたのは1989年のことである。終結した理由として、リベラリズムの拡大やソ連防衛費増大による国内の他分野への影響、共産主義の衰退とソ連経済の失敗などがあげられる。冷戦終結後のロシアは民主化と経済の自由化を目指したが社会は混乱し、経済情勢が悪化した。これらを原因としてロシア人のナショナリズムが高まる結果となった。
4. 冷戦における核の役割
冷戦が熱戦化しなかった理由として、核兵器の役割の重要性があげられる。核兵器のその巨大な破壊力は、各国に対して戦争を政治的手段として用いる方法を提供した。核の抑止は、これまでにない「恐怖の均衡」という超量大国間の間で保たれるバランス・オブ・パワーを築き上げた。また、このバランス・オブ・パワーの慎重さは、二極構造の安定化をもたらした。しかし、核抑止の事例としてあげられるキューバ・ミサイル危機の背景から、核抑止は道義的なのかという根本的な問題が浮き彫りとなり、正義論や米国カトリック教会によって核兵器の信憑性が唱えられてきた。核保有の地位的向上を望む北朝鮮やイラン、さらにテロリストたちのような「現代の脅威」にこのような核抑止の意思があるとは言い難く、現代において核抑止は十分な対処とはなっていないのが現状だ。
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<5限目>
■ 内 容 : 文献精読『国際紛争』第5章
■ 発表者 : 内田 真衣 (人権班) 法政大学国際政治学科2年
河辺 大毅 (人権班) 法政大学国際政治学科2年
■ 使用文献 : ジョセフ・S・ナイ・ジュニア著 『国際紛争』 P.145~P.197
1. ナショナリズムとは何か
国際的な紛争の原因の一つとなっているナショナリズムとは、ネーション(nation)に関する主義(ism)であり、ネーションとは辞書では「一体感を共有し、国家となるべき権利を主張する集団」と定義されている。このような集団の一つの見方として、民族的な共通感、言語の共通性や宗教的基盤などがあげられるが、一体感を所持する人間集団が自らをネーションだと言っているとすれば、どのようなものであれ、その一体感の源泉は多様であり得る。ネーションの根本的な要素は、すべての個人が多くのことを共有しているということである。以前はそれほど問題視されていなかったが、社会生活において自らの位置に確信の持てなかった人々の新しい自己意識への見方が支持されるようになり、ナショナリズムが重要視されるようになった。
2. ナショナリズムから紛争へ
ナショナリズムの概念において問題なのは、権力闘争に使われる政治的な意味を含んでいることである。ナショナリズムは近代世界において、国家の正当性の決定的な源泉となり始め、ネーションであることの主張は、強力な政治手段であるとも受け取られるようになった。自らがネーションであるということを他の人々に受け入れさせることができた集団は、自らの民族的権利を主張することが可能であり、これを彼らの敵に対する武器として使用することができる。このことから、近代で何度も起こった戦争から見てとれる共通性として民族の正当化がある。これは自らの存在の正当化を考え、相互に認めない結果、対立する両陣営の強硬派が相手側の強硬派をますます強硬にさせることを意味する。このような暴力に溢れた近年の紛争経験が指し示すことは、エスニシテイ、宗教、ナショナリズムの絡む地域紛争は、苦渋に満ちた、解決へと向かっていくことが極めて難しい紛争になりやすいということである。
しかし実際の紛争のほとんどは平和の下に解決され、暴力に発展する場合は極わずかである。紛争を解決する上で大切なことは妥協することであり、相互性の一種である「交代」という規範を持ち出して紛争に対応することで、単発の紛争解決をより広い妥協のパターンに効果的に組み入れることである。
しかし、平和的に紛争を管理するには相互の協調が必要であり、その協調のためには第三者が調整、介入を行わなければならない。破綻国家に対する介入の際には主権を無視すべきという見解もある。国連のハイレベルパネルは、深刻な被害によって主権の存する政府がそれに対処できない場合、国連安全保障理事会は、人道法に基づいて軍事的介入することができるとしている。国際社会において、国際的無政府状態が一定の基本的原則として存在する以上、主権と非介入こそが世界システムに秩序をもたらしているのである。そして紛争などの国際社会における問題解決には、第三者的立場が必要であり、今日この機能を有しているのが国際連合である。