Japan Commission for Global Governance holds its first meeting on UN Reform (23/07/2019)

 Keynote Lecture was delivered by Takahiro SHINYO, Professor of Kwansei Gakuin University and Former Ambassador and Deputy Permanent Representative of Japan to the United Nations in New York; Panel Discussants were Professor Kiyotaka KAWABATA of Fukuoka Women’s University and Ms. Chikako HIROSE, former director of the United Nations Center for Regional Development in Nagoya.


【開会の挨拶】
 冒頭、谷本 真邦グローバル・ガバナンス推進委員会事務局長より、本年5月15日に発足されたグローバル・ガバナンス推進委員会における分科会の目的は、問題提起された、①国連改革、②法の支配、③議員外交、④環境問題、⑤国際連帯税、⑥軍縮などの分野において、有識者による討論会を介した意見交換であり、今年度中(2020年2月迄)に提言をまとめた報告書を作成し、政府や政府間会議等への提言につなげることを目指す旨説明された。

【基調講演の概要】
 グローバル ガバナンス推進員会国連改革議長として神余隆博教授が、基調講演として、以下のとおり、発言された。

 国連に関する日本が抱える主要な問題意識としては、①中国の影響力の拡大、②国連憲章を支えてきた自由・民主主義的秩序の後退、及び③日本の存在感の希薄化が、顕著となってきている。これらを背景に、現実的な改革案を提唱していく上で、国連改革を行っていくには今後30年先を見越し、国連発足の100周年である2045年を目標にすることが妥当であり、オールジャパンの立場としてまとめていくことが重要である。国連における政策課題の前提条件も、「貧富の差」や「主権の在り方(独裁・権威・自由主義)」等新しい形での分断に基づき形成されてきているため、国連改革については、既存の議論を出発点とするのではなく、新規な観点からの提言を練り直し、また、すでに1970年代から提唱されていたが、忘れ去られた提言案を再度掘り起こす等の取り組みも検討する。

 改革分野としては、(1)平和と安全、(2)経済と社会開発、(3)人権と自由、そして(4)地球環境と宇宙保全の4分野を提案するが、それらに関する提言の概要一部は以下のとおりである。①平和と安全の分野では、日本は、安全保障理事会(「安保理」)改革について、G4を離れ、異なった発想で早期に実現可能な改革を目指し、また、軍縮に関する日本のイニシアティブの一環として、例として、軍事参謀委員会を活性化し、核を含む軍備規制を強化するとともにジュネ―ヴ軍縮会議を廃止して新たな軍縮理事会の創出を提唱していく。更には、日本の役割として国連憲章第6章に基づく紛争の平和的解決(平和創造活動:PMO)を、紛争予防も視野に入れ強化していくことを提唱する。②経済と社会開発の分野では、現在の経済社会理事会(「ECOSOC」)の加盟国数を半減し、独立した意思決定機関(法的拘束力はないが、政治的拘束力はある)とし、10年毎に見直すことを提唱していく。③人権と自由の分野では、人権理事会が期待された機能を果たしておらず、米国の復帰を求めるためにも、ECOSOCの理事国から理事国が選出される等、再び人権と自由を国連の中心に取り戻すことを提唱する。④環境と宇宙保全の分野では、抜本的な改革の実行を可能とするため、信託統治理事会を廃止し、地球環境理事会をナイロビに設置することを提唱する。

【パネル討論会】


 川端 清隆福岡女子学院大学教授は、25年の国連勤務経験に基づき、以下のとおり、発言された。

• 日本の問題意識として、国連における中国の権限が拡大していることが重要視されてきていることに共感するが、中国の強みは、国連を通じて中国の指導権を確立したい明確な目的があり、国連に自国の職員を送り込むことで、国連政策に影響を増していく戦略を遂行していることである。

• 安保理改革については、進まない中で、何を替えると実質的に改革につながるのかを見直す必要がある。原稿安保理改革案に関しては、G4案の地域代表の在り方に着眼し、但し、アフリカ2か国の追加についても対立があり、コンセンサスグループではイタリアのG4に対する反論が高まってきている。

• 上記を踏まえて、国連における日本の国益は何かを問い、即ち、日本が常に国連で存在する状態を維持するためには、どのような立場をいかに向上していくかの方向性を精査し、国連の中で日本にとっての利益を獲得することを戦略立てていく必要がある。

• 上記は、オールジャパンの立場で、日本が提言する初めての改革案でなくてはならないと考える。

 髙瀬千賀子元国連地域開発センター所長は、34年の国連勤務経験に基づき、以下のとおり発言された。

• ECOSOCは、2030 Agendaの採択にもより、開発課題を全て持続可能な開発を基に組み直しており、組織内の呼称にも「Sustainable Development」と付くところが増加している。

• 1984年の時点では、国連での経済分析はBretton Woodsが行うとされていた中、今日、国連は、経済を含む幅広い分野に関する協議を可能とするプラットフォームとなっている。

• 現在のSustainable Development Goals(SDB)は、国連で議論されていなかったMDGと比較すると、SDGに関連する中進国からの提案で策定され、プロセスされ、フレームワーク化された。今では、SDGは、サミットレベルで協議される、ハイレベルな政治的なフォーラムでの議論の対象となっている。

• ハイレベルでの議論については見直しの機会を作ること、危機管理機関の設置等が今後の課題となると考えていたが、危機管理の方法としては、現行の制度上、例えば食糧危機の時にローマ食糧関連3機関に対して財務支援を行うために開催した、Special Sessionを通じて対応することも制度上可能であると承知している。

【参加者による意見交換(ご発言順)】

 長谷川祐弘グローバル・ガバナンス推進委員会座長は、国連改革が成し遂げるべき新しい体制を想定して、改革後の国連が網羅すべき三つの要素を示唆された。

 1. 国際社会全体の民主化へ寄与できる国連:ブートロス・ブートロス=ガリ事務総長が「平和への課題」「開発への課題」の後に打ち出した「民主化への課題」の実現に向けて国連がグローバル・ガバナンスを推進していくことが重要である。すなわち、国際社会が平和を達成し維持していけるには、開発を成し遂げるとともに国際社会全体の政治体制が民主化される必要性があるという点である。これは日本が明治維新で独立していた藩と武家制度そして士農工商の階級制度も廃止し、市民に参政権を与えることによって、日本全体を人民主権の基で中央政府を設立したことが、日本社会の安定と平和をもたらしたことである。国際社会制度もこの方向に向かっていくべきである。

 2. 経済金融体制の改革を推進する国連:世界的な金融危機が2008年に発生した直後に、当時の国連総会の議長の要請でノーベル賞受賞経済学者ジョセフ・Eスティグリッツ氏が専門家委員会を立ち上げた。この委員会には日本の榊原教授も参加して、金融危機の原因を分析し、短期的な市場営利主義を制限する政府なでの公的機関の役割の増大、透明性そして説明責任が果たせる金融システムの大改革の必要性を指摘した。そして新しい世界経済ガバナンスとして、世界経済活動により多きい割合を占めるようになった途上国が、相応な代表権と投票権が与えられるように第2次世界大戦後に設立さればブレトンウッズ体制が改革されるべきであると説いた。そして、金融危機の直後に構成されたG20グループが、国連の安全保障理事会(Security Council)や経済社会理事会(ECOSOC)よりも世界社会での勢力と多様性を現実的に反映しており事実を認め、国連の枠組みに取り組むことによって「正統性」が与えることが良いとおもわれる。

 3. オムニラテラリズムの実現へ向けた国連:多国間主義は特定の課題に関して、複数の主権国家の国々が協調して取り組む枠組みを意味しているが、オムニラテラリズムは地域の全ての構成員による、より広い参加と、全員にとっての包括的な目的を共有することを意味している。それゆえ、国家間だけでの協力を強化するだけでなく、国連憲章で謳われているごとく、人類の平和と繁栄に貢献することができる非政府組織(NGOs)、市民社会全般(Civil Society)そして一番重要な人々(People)を含む機関が国連に創設されるべきである。すでに欧州連合の議員たちが、国連議員総会(UN Parliamentary Assembly)の設立を提案している。世界を構成している多様な文化・社会体制や慣習を尊重して、世界社会の構成員を網羅した国際社会(World Community)を基盤とした政治社会体制を構築すべきという、オムニラテラリズム(Omnilateralism)を推進していくことに意義がある。


 猪又忠徳大使より、神余議長の提案を念頭に、概略、以下の国連改革の方向が提言された(詳細、補遺参照)。

 1.国連がグローバル・ガバナンスに貢献する条件は、各国が直面している諸々の地球規模の課題克服に対し、共通の目標を設定し、その実現に取り組む戦略的計画の枠組みstrategic planning frameworkを有することである。このような枠組みは、SDGs三次元のみならず平和・安全保障分野をも網羅するべきものである。しかしながら、そのような枠組みはいまだ確立していない。従って、国連改革とは、まずもって、そのような枠組みの形成にあたることである。

 2.このため、以下を勘案する必要がある。

 - 最近、グテーレス事務総長は、peace-sustainingアプローチ展開を望む国連総会及び安全保障理事会の決議に応えて、SDGs達成をもって紛争の根本原因を除去する紛争予防構想を唱えている。これは、持続可能な開発による「人の安全」保障を集団的安全保障と表裏一体の紛争予防手段とする点で、国連が今後、グローバル・ガバナンス全域への取組を見出す糸口となろう。

 - 国連によるグローバル・ガバナンスの遂行においては、国連加盟国政府は、市民社会、民間企業、学界等の認識集団との連携とシナージーを益々、強化するべきである。

 - HLPFにおけるグローバルな共通課題に関する各国の状況及び施策を「見える化」するため、SDGs全般につき包摂的な情報収集と共有制度を設けるべきである。

久山 純弘元国連事務次長補は、以下のとおり、発言された。

 「極めて混沌とした現在の国際社会の中で、国連が本来期待されている役割を果たしていく上で基本的に重要な改革は、国連憲章の精神に則り、前文の ”first 7 words” にある ”WE THE PEOPLES OF THE UNITED NATIONS”の“PEOPLES”が、国連の意思(政策)決定過程に組織的に参画することが可能となる様なシステムを構築(例えば”Peoples Assembly” を創設)することであり、それにより、国連は初めて i)より正当性があり (“legitimate”) 、ii)より“accountableで、iii) より実効性のある存在となり得ると考える。」


 井上 健JICAシニアアドバイザーは、以下のとおり、発言された。

 「26年後の国連創立100周年に向けての国連改革を考える際には、今後の国際的な潮流をとらえることが大切だ。少なくともいえることは、国家主権の枠組みがなくならないとしても極めて緩いものになり、同時に国家の枠組みを超えた市民社会組織と企業活動がますます盛んになり、彼らが世界の潮流を作るアクターになっていくということだ。したがって、これからの国連は、国家だけではなく市民社会組織や企業との連携をとりながら、国際の平和と安全、持続的開発、人権擁護を推進していくことが不可欠となる。市民社会組織と企業が特に重要な役割を果たすべき分野は自由と人権の分野であり、彼らが中心となってこれからの地球社会の規範を作り広げていくべきである。主権国家に対して強制力はなくても、国家を超えた市民社会や企業が推進する規範は、平和と安全、経済と社会開発、地球環境と宇宙の保全の分野にも大きな影響を与えるだろう。具体的には、国連憲章第9章(経済的及び社会的国際協力)にもとづいて、市民権理事会(Civil Rights Council)と企業の社会的責任理事会(Corporate Social Responsibility Council)、あるいは両者をあわせた市民と企業理事会(Citizens and Corporations Council)を設立して、それぞれ20団体程度の市民社会組織と企業を構成員として(一定の任期ごとに入れ替える)、国連憲章の目的を達成するために国家、市民社会、企業がなすべきことを規範として採択し、その現状を定期的にモニターする。」

 黒澤 哲共立女子大学教授は、以下のとおり、発言されました。
 「神余先生の試論に難民問題も含めて欲しい。中米キャラバンやシリア難民の欧州流入に際し、国連は十分には対応できなかった。UNHCRが難民支援をしているが、現場での保護が中心であり、根本的な解決にはあまり役立っていない。AUやEUなどの地域機関があるところでは、国連の影響力も限られている。今後どのようにこれらの機関と連携していくかも課題。」

米川佳伸(よねかわ よしのぶ)、元DESA職員(1978 – 2010)、現在真言宗僧侶

 1.(統合化vs分散化)国連の機能には大きく分けて会議を通しての政策形成、研究調査、オペレーションの三種がある。オペレーションには経済社会分野のものと安全保障に関わるものとがある。経済社会分野のオペレーションについては、1950年代から1970年代まで国連を中心とする国際機関の「統合化」が図られた。その際UNDPなどの国連内の基金とその出先事務所のネットワークが中心となった。そのうちに援助受け入れ国の発言力の強化とともに、そこに実施機関として参加していたILO、UNESCO、FAO、DESAなどの国際機関を切り捨てる形で、国連開発システムの中で「分散化」が起こり、国連関係の各機関がバラバラに活動する方向に向かった。その後、分散化の問題点が再認識されるようになり、UNDPの出先事務所を活用した国レベルの国際機関同士の調整が行われるようになってはきたし、現今はSDGsという共通の政策目標はあるものの、現在の分散化の状態ではシステム全体としての効率が悪い。日本が国連開発システムの統合化に向かってリーダーシップを発揮しようとするのか、或いは敢えて分散化を図って各国際機関の中における優位を得ようと努力すべきなのか、日本はその立ち位置を明確にする必要がある。長期的には、国連システムにとっては統合化へ進むべきだと考えるが、日本の国益をどのように絡めて考えるかは、また別の話であろう。

 2. (地方政府の参加)国連は第一義的には中央政府が作る組織である。しかし、そこにはNGO、市民団体、研究機関、財団、宗教組織、その他多種多様な組織が参加している。国連憲章上「国内団体」と総称されている組織である。その中で、地方政府の参加は決して多くない。国連の活動が人間活動の全般に及んでいる点を考慮しても、地方政府のさらなる参加が期待される。東京都は1994年にDESAと大都市経営についての国際会議を共催した。日本の地方自治体が国連と共同して行った初めての事業であった。国連組織の活性化の爲にも、また地方政府の発展のためにも、地方政府のより一層の参加が望まれるし、国連改革の一環として、そのための具体的な枠組みが国連改革のための提言に含まれると良いと考える。

 3.(自衛隊がPKOに参加するための国内法改革) 日本の組織が国連改革を提言するのなら、日本が積極的に国連の活動に関与するための国内的な体制を準備し強化する必要がある。現行の国際平和協力法や国際平和支援法ではPKOに参加する自衛隊員が正当防衛と緊急避難以外には人に危害を与えてはいけない、という規定がある。このような体制でPKOに参加する自衛隊員の生命と安全を計れると想定するのはそもそも無理であり、従って、現状では自衛隊をPKOに参加させるべきではない。もしも自衛隊のPKO派遣を行うのなら、自衛隊員の生命と安全を確保する為に、上記の規定は変更すべきである。さらに、現在の法的枠組のまま自衛隊のPKO参加を行おうとするなら、少なくとも、自衛隊の展開予定地が現実に安全かどうか、派遣の決定に参画する国会議員自身の目で確かめる必要があると考える。

 その他に伊勢桃代日本国際職員会会長、功刀達朗国連協会理事、森淳一郎アライアンス・フォーラム財団理事補佐が発言された。




【討論された要点の整理の概要】
 最後に、神余隆博グローバル・ガバナンス推進員会国連改革議長により、討論の要点が整理され、その概要、以下のとおり。

「国連改革を考える上で、国連の「顔」をそもそも考える必要がある。第一は、中立性(neutrality)を維持する組織としての顔。第二は、主権国家である加盟国が所属する組織としての顔。これらの二つの顔の基づき、国連改革の課題を分けて考える必要がある。例えば、社会と経済発展の分野については、前者の「顔」に基づき、現行の組織を強化していくことである程度対応していくことも可能と思える。他方、後者の「顔」については、国連がいつまで生き延びられるかを問う内容で、国家がばらばらにならないためには、多国間的(Multilateral)なアプローチが益々これから重要な役割を担うこととなる。安保理改革は後者の「顔」の対象となる課題ではあるが、国連がもっと良くなるためには、将来的に何等かの実現可能な安保理改革は不可欠である。更には、国連と日本との関係性について、今後、より深く討論される必要がある。日本が国連に加盟してきたことにより得ている利点とは何か、国連を通じて日本は何を目指すのか、より戦略的な議論を展開すべきである。」

【グローバル・ガバナンス推進員会:分科会第二回意見交換会は、9月24日(火)午後3時~午後5時(場所未定)に開催される旨決定した。】


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【補遺】国連によるグローバル・ガバナンスに関する現状と提言(猪又 忠徳)


1. 国連がグローバル・ガバナンスに貢献する条件は、各国が直面している諸々の地球規模の課題克服に対し、共通の目標を設定し、その実現に取り組む戦略的計画の枠組みstrategic planning frameworkを有することである。このような枠組みは、SDGs三次元のみならず平和・安全保障分野をも網羅するべきものである。しかしながら、そのような枠組みはいまだ確立していない。従って、国連改革とは、まずもって、そのような枠組みの形成にあたることである。

統合的枠組みの不在
2. 国連システムが単一の統合的戦略計画を持ち合わせるに至っていないのは、実のところ、多種多様な類似の活動を行う機関の繁殖と相まって、作業の輻輳が顕著であり、加盟国や主要ステークホルダーは、フォーラムショピングに走っている。それに伴い、いわゆる成果志向型の計画予算制度の林立と競合が起こっている。

3. 他方、これまで国連は、地球規模の課題に取り組むため多くのグローバルな国連会議を通じて、種々の宣言・行動計画や条約を含む種々のレヴェルの法規範の形成と実施に努めてきたが、総合調整の場が欠けることから、それがすぐさま一元的な規範の形成に結びつくことはなく、戦略的枠組みの形成は容易ではなかった。

グローバル・ガバナンスの制度的形成に向けて
4. 経済社会分野の制度については、2012年の所謂リオプラス20会議(持続可能開発に関する国連会議)において、持続可能な開発を構成する経済・社会・環境の三次元の課題に取り組む枠組み、すなわち、Institutional Framework for Sustainable Development (IFSD)が成立している。ちなみに、同枠組みは、2013年以来、総会及び経済社会理事会が招集し、運営する「持続可能な開発に関するハイレヴェルポリテイカルフォーラム」(HLPF)において機能している。また、いわゆる国際環境ガバナンスInternational Environmental Governance (IEG)はIFSDのコンテクストにおいて強化が図られ、そのため、UNEP管理理事会の格上げ合意された。

5. 上述のように、SDGsに関連する経済社会分野の国際組織の設立は、過剰なくらい進んでいる。加えて、これら機関と安全保障理事会や平和構築委員会などの政治安全保障の分野の機関との制度的関係は、並立的なものにとどまり、実体的には未確立である。これについて、最近、グテーレス事務総長は、peace-sustainingアプローチ展開を望む国連総会及び安全保障理事会の決議に応えて、SDGs達成をもって紛争の根本原因を除去する紛争予防構想を唱えている。これは、持続可能な開発による「人の安全」保障を集団的安全保障と表裏一体の紛争予防手段とする点で、国連が今後、グローバル・ガバナンス全域への取組を見出す糸口となろう。

6. また、最近、国連総会の承認を得て、開発事業活動のSDGs三次元の統合のため、グテーレス事務総長がグローバルなレヴェルに加えて、フィールドにおいてCCA/UNDAFを基礎とする国別戦略計画の形成は呼びかけていることは、歓迎すべき動きであり、支援すべきである。

7. また、最近の2030年持続可能な開発アジェンダや気候変動に関するパリ協定の採択の成功をはじめ、これまで多くの地球規模の課題に関するグローバルな国連会議を通じた、種々のレヴェルでの法規範の形成と実施の背景には、台頭する非国家主体の貢献があったことを看過すべきではない。その裏には、グローバル・ガバナンスのアジェンダ設定が、誰一人置き去りにしないとの原則に立ち、グローバルかつ包摂的であったことを念頭に置くべきである。従って、国連によるグローバル・ガバナンスの遂行においては、国連加盟国政府は、市民社会、民間企業、学界等の認識集団との連携とシナージーを益々、強化するべきである。

8. 現在のところHLPFにおけるSDGsの履行評価と改善の仕組みは、きわめて複雑であり(Figure 1参照)、システムワイドな国連の戦略的計画の形成は前途遙遠である。喫緊の課題は、HLPFをSDGs三次元の統合の場として、強化することである。そのため、グローバルな共通課題に関する各国の状況及び施策を「見える化」するため、SDGs全般につき包摂的な情報収集と共有制度を設けるべきである。

9. 具体的には、ステークホルダー達が互いの活動の調整・連携を可能とする以下のような情報共有の仕組みの構築が急務である:

1) 誰がどこ何をどのような規模でしているかがステークホルダー達の間で相互に知り合うような、国連システム全機関共通の情報を収集するダッシュボード乃至データシステムの構築;

2) 既に進行中のOECDとの提携による国連統計委員会による防災活動を含むSDG活動、ターゲット及び指標の定義及び数量的情報の明確化;

3) 将来の国連システムによる戦略的枠組みを資源動員と結びつける活動目的と必要経費を計画別に明らかにする包括的かつdisaggregated な情報の捕捉。

神余議長試案への気づきの点
10. 経済社会理事会の構成をG 20のようなrestricted なものにすることは、普遍的課題を扱う理事会にとって、不都合である。そもそもG 20には、最貧国、内陸国、小島嶼国や破綻国家などがいない。また、経済社会理事会の決定は、確かに勧告に過ぎないが、理事会は法的拘束力のある条約案を起草し、総会に提出する権限を有する(憲章62条2項参照)。従って、経済社会理事会において、メンバー国がその気になれば、法的に拘束力のある合意文書の作成を目指して、交渉することは可能である。

11. 環境安全保障を強化するため、環境理事会を設置する提案に関しては、このような提案は過去にも何回も出されたが、2012年の所謂リオプラス20会議(持続可能開発に関する国連会議)において、決着済である。すなわち、同会議では、従来58か国で構成されていたUNEP管理理事会を国連全加盟国からなるUnited Nations Environment Assemblyに改組することが合意された。これによりUNEPが21からなるグローバルな多数国間環境条約間の全般的調整と調和ある政策展開を促進することが可能となった。

12. 軍備規制や軍縮を進めるにあたって、国連は通常兵器の移転情報の登録のみならず、すべての加盟国の軍事支出や軍事に従事する人員の統計の自前の権威ある統計を整備するべきである。軍縮に関する世論形成には、軍事支出や兵器移転の透明性を高めることが不可欠である。

配布資料
•「国連改革に関する検討案(試論)」神余 隆博議長
•「経済社会理事会についてのコメント 概要」髙瀬 千賀子委員
•「ブートロス – ガリの遺産」長谷川 祐弘グローバル・ガバナンス推進委員会座長
•「The G20 and the United Nations in Global Economic Governance」同 長谷川座長
•「Resource Diplomacy in Action」功刀 達郎国連協会理事

グローバル・ガバナンス推進委員会
2019年7月23日
衆議院第一議員会館第5会議室
「国連改革」意見交換会 出席者リスト


1. 長谷川祐弘委員会座長
2. 神余隆博国連改革議長
3. 猪又忠徳大使、長崎大学グローバル連携機構アドヴァイザー
4. 伊勢桃代国連協会理事
5. 功刀達郎国連協会理事
6. 川端清隆福岡女学院大教授
7. 高瀬千賀子元経済社会理事会担当政策調整部長補佐
8. 久山純弘元国連事務次長補
9. 黒澤啓共立女子大教授
10. 井上健JICAシニアアドバイザー
11. 田辺圭一東海大准教授
12. 大塚グループ井上裕史国際部長
13. 天野富士子弁護士
14. 森淳一郎アライアンスフォーラム代表理事補佐
15. 宮越太郎ブラッドフォード大学
16. 米川佳伸元国連職員・真言宗明王院内
17. 塩浜修世界連邦運動協会理事
18. 谷本真邦事務局長
19. 山内健人世連学生代表