2012年度法政大学法学部
「外交総合講座」
■ テーマ : 「外交の理論や概念の紹介」
■ 講 師 : 長谷川 祐弘 教授 法政大学法学部教授
■ 日 時 : 2012年4月10日(火) 13:30~15:00
■ 場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 407教室
■ 作成者 : 谷田部 紗也加 法政大学法学部国際政治学科2年
本多 優子 法政大学法学部国際政治学科2年
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<I.講義概要>
1. 授業目標
第一に、外交政策の立案・施行方法を理論と共に学ぶ。第二に、グローバル化の進展と国際政治の構造的変遷に伴い、多種的な相互依存性のある課題に関する外交論や見解を学ぶ。第三に、日本国家と市民の安全と繁栄を維持すると同時に世界平和と繁栄を達成する為に、日本が国際社会の一員としてどのような外交を行っているか検証する。
2. 総合外国政策について
(1) 政策
自国の国益を最大限に確保すること、第二に世界平和と繁栄を達成することが総合外国講座の目的である。そして、グローバリゼーションがいかに外交の役割と方法を変えてきているかを知るには、現実の出来事が真実かを見極める為に、パラダイムシフト、つまり自分の物の見方を良くしていくことが必要である。
(2) 実践
現実主義、自由主義、構築主義の3つの理論に基づき政府の政策を見る事で、理論と政策がいかに形成されてきているかを知り、そして総合外交政策の施行にあっての課題と問題を、安全保障、国際経済関係、地球環境、人権の4点の見方より外交を評価できるように学ぶ。
3. 「外交」とは何か?
(1) ハロルド・二コルソン
「外交」7項においてハロルド・二コルソンは、「外交とは、交渉による国際関係の処理であり、また大公使によってこれらの関係が調整され、処理される方法で、外交官の職務あるいは技術である」と伝統的な考え方で定義した。
(2) フランソワ・ド・カリエール
ルイ14世の大使であったフランソワ・ド・カリエールは、「外交談判法」において、外交には二つの義務があり、それは、「主君の要務を処理すること」と「他人の要務(相手の意図するところ)を見破ること」であると示した。
(3) アーネスト・サトウ
外交を独立国家の政府間の公式関係における、知性と機転の応用であると定義した。そしてそれを平和的な手段に基づいて、処理していくと言った。
(4) 外交 Diplomacyの定義
Diplomacy(外交)とは、外交官や首相などの国家の代表と、外国の代表との、国際社会における問題に対応することを目的とした様々な政治活動である。また外交は二国間・多国間で行われるものである。その方法論には①外交官による外交、首脳外交、秘密外交、②一元外交、二元外交、③二国間・多国間外交、国連がある。ここで、一元外交が行われやすい国家は、独裁国
4. 鳩山元総理のイラン外交について
2012年4月5日に開かれた衆議院予算委員会における、鳩山総理のイラン外交に関する答弁をYouTubeより視聴した。鳩山元総理のイラン訪問は二次元外交であり、イラン政府より「IAEAのダブルスタンダードを述べていた」として利用された。よって今回のイラク外交は他人(イラン)の要務を見破ることに失敗した。したがって効果的に日本の国益を守ることが必要である。
5. 外交政策とは
(1) 佐藤英夫氏
日本国際政治学会の会長をしていた佐藤英夫氏は、対外政策ということはどういうことかについて、このdiplomacy(外交)というのは外交交渉を戦略的、効果的に行うための総合的な対外政策であるとともに、安全保障などのような国益を保持する、守るというのがdiplomacy、外交の手段の一番の目的であるといっている。そこには手段としての外交と、戦略としての外交政策というものの違いがある。そして外交交渉と外交政策というものを一緒にやっていくことが外交総合政策であるといえる。外交というものは、防衛とに関係があるものであり、平和を達成するためにこの2つの手段が必要であるということがいえる。外交総合政策は安全保障、経済・地域、地球社会と環境、人権・正義・公正・共生という4つの分野で関わっている。
(2) 孫子
2500年前の中国の哲学、戦略家である孫子曰く、「敵を知り己を知れば、百戦して危うからず」、「戦わずして人の兵を屈するのは、善の善なり」同じようなことを言っているのが今は立命館大学などで教えておられる薮中三十二前外務次官である。彼は「国家の命運」の中で、相手が何を狙っているか、交渉の結束をどのくらい急いでいるか、相手の力はどのくらいあるのか、自分自身の国内での力量と相手の国内での力量はどのくらいあるのかを知り、すなわち相手と自らを十分知り尽くせ、と言っている。また、外交交渉の要諦として大事なのは、嘘をつかず欺かない、絶対に必要なことと融通のできる事を区別し、優先順位をつける、守られないという3つであると述べている。
(3) 中曽根元総理
外交とは武器を持たない戦争であり、講和だ。すなわち交戦国が講和を結んで戦争をやめ、平和を回復すること。要するに政治というものは背広を着たお互いの権力闘争である、と述べている。
(4) 外交の輪と国と国家の違い
外交の輪は個人、地域社会、国家、国際社会とある。ここで、国と国家の違いは何か。国とは、共同体であり、みんながそこに住んでいて国というものになる。対して国家とは、国際社会があった場合にアメリカや日本など色々な国がある。伝統的な概念としてはこういう国家がバラバラにあるということである。
6. ウェストフェリア体制
現実主義者曰く、「国家の上に立つものはない、国家は主権を持っている。」これが1648年に30年戦争の後にできた、ウェストファリア体制である。ここでは国家の主権というもの、そして国家はすべて平等である。
(1) ウェストフェリア体制下の外交
外交というものは国家の安全のための交渉術であって、他国との交渉の上、自国の利益の確保が重要である。
(2) ポスト・ウェストフェリア体制
国家間の共有する利益の拡大、国際社会と地球益、すなわち国際公共財の確保と増大というものを目指している。ウェストファリア体制下の外交とは、国家と国家の間の維持であり、目的としては相互の国家利益の増大である。外交とは国家が自国の国益や安全、繁栄を促進するため、そして国際社会において国家の安定性を維持し、友好関係を強化するために政府間で行われる交渉、政策を意味する。長谷川教授の見解だが、これは国家間の直接的な交渉であり、国際機関を通じた交渉を入れていないということがいえる。
(3) 国家の条件
領土と住民に対しての主権があり、他国の承認が必要である。
7. 現実主義
(1) トゥキュディデス
自国の安全と国益というものが最優先されるべきであり、外交はその手段である。要するに国家間の関係は正義より力の関係である。力の関係が変わることによって、外交も変わる。ペロポネソス戦争では安全保障のジレンマというものが起こった。これは片方が自国を守ろうとして戦力を強くすると、反対側がそれを脅威に感じる。そして戦力を増大する。そうするとお互いに限りない軍事競争が起こるということである。
(2) オーガスティン卿
正統なる戦争論を説いている。これは宗教的なものだが、正統なる目的、適切に作られた機構によるもの、慈愛心を持ったものであるという条件がある。
(3) リシュリュー枢機卿
国家の理性というものは国家が存在するためには、人間としての道徳というものは当てはまらない。つまり国家は非道徳的な行為も許されるということである。
(4) マキャベリ
人間の本質は邪悪な存在であり、信頼できるものではない、相手を信用してはならず、信用できるものは自らのみである。外交というものもそのような現実的な考えを持ってやっていかなければならない。
(5)ホッブズ
国家は人間の性格を反映している。すなわち世界というものは自然状態であり、万人の万人に対する闘争である。反実仮想というものに従うと、そのような弱肉強食の世界においては、力のあるものが勝つ。だから弱いものが強いものから身を守るためには、政府を作る。国家の中に政府、警察を作って身を守ってもらう、これを社会契約論と呼ぶ。国家は自らの富と権力を増大することを目的として、そのために安全保障の対策を練っている。
(6) ハンス・モーゲンソー
現代の現実主義の父と呼ばれている、アメリカの学者。彼は国際政治を権力闘争とみなし、外交の行動の基準としては、力によって定義された利益としての国益、というものを提唱している。国家は自らの利益を守るべきでありそれを優先すべきである。そのために権力を行使する。ある意味で政府は国家の利益に反することをするのはいけないと説いている。
(本文終了)
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<II.質疑応答>
1. 鳩山元総理のイラン訪問に関する国会の答弁の映像からの質問
Q. どうして政府は鳩山元総理のイラン訪問をやめさせられなかったのか
A. 民主主義国家ではアメリカでも日本でもみんな自分の意見を述べるという権利がある。鳩山元総理は二元外交としてイランに行って直接説得すると政府の要請を断った。