[Diplomacy] 2011年9月28日(水) 「外交」に関する概念と理論(長谷川教授)



外交総合講座

■テーマ:「外交の理論と実践、グローバル化の世界での外交」
■講師:長谷川祐弘教授
■日時:2011年9月28日(水) 13:30~15:00
■作成者:近藤 れな  法政大学法学部国際政治学科3年
      伊藤 菜々美 法政大学法学部国際政治学科3年
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<講義概要>

1. 外交の理論と実践
1)「外交」とは何か
ハロルド・ニコルソン(1886~1968)によると「外交とは、交渉術」である。外交は、交渉による国際関係の処理であり、大公使によって調整され、処理される方法であり、外交官の職務あるいは技術である。外交(diplomacy)は、国際社会における国々の間に起こる問題に対応することを目的に、外交官や首脳により行われる。そこには公式な活動による一元外交と、静かにまた秘密裏に行われる二元外交とがあり、その交渉は二国間または多国間でなされる。
外交政策(foreign policy)とは、外交交渉を戦略的、効率的に行うために立案される総合的な対外政策である。ウェストファリア体制下では、国家の安全と自国の利益の確保が外交の最大の焦点であったが、ポスト・ウェストファリア体制下の現代では国家間の共有する利益、地球益の最大化や地球公共財の保全、その平等な享受なども外交において重要な課題となってきている。
2) 外交理論
リシュリュー枢機卿(1585~1642)は、「国家理性」(raison d`étre)は国家の存在理由であり、たゆみなく交渉することにより得られる説いて、外交政策の構造を語っている。
フランソワ・ド・カリエール(1645~1717)は、外交には赴任国において自国のための業務を処理すること、赴任国で何が起きているか自国に報告することの2つの任務があると説いている。エルネット・サトウ(1843~1929)は、外交とは独立国家の政府間の公式関係における知性と機転の応用であり、平和的手段による国家の実務行動である、としている。
第2次世界大戦に影響力を持って外交を説いた政策立案者はハンス・モーゲンソーとヘンリー・キッシンジャーがいる。前者に関しては後に詳しく述べるが、後者は1994年に『外交』の中で主張したのは、力の均衡、国家の存在理由が国家の行動を左右する主要な要因であると説いている。
3) 外交の輪
伝統的な概念では、国際社会を構成するのは国家と国家であり、個人の権利はそれほど尊重されなかった。外交における行為主体は国家(nation state)であるが、その条件となる要素(主権の行使、領土の保有、住民の統治、他国の承認)は必ずしも整っていない。国家は領土と住民に対して主権を行使しているとされるが、多くの国家は多民族国家であるためNation stateの要素である文化、言語、宗教、価値観、社会構造、歴史、国家としての性格を共有しておらす、協調していくことは非常に困難を伴っている。
ウェストファリア体制下の外交とは、国家と国家の関係の維持であった。相互の国家利益の増大を目的として、国家の安全保障や貿易・通商、文化交流、航空協定などで交渉が行われてきた。その過程の中で、国際社会全体の利益を考える意義や必要が出てきた。

2.グローバル化時代の世界での外交
外交総合とは、外交政策に関わる分野として、1安全保障 2経済・地域統合 3地球社会と環境 4人権・正義・公正などが挙げられる。外交政策を立案するには、国際平和と紛争の理解が必要であり、自国の国益を最大限に確保する事と同時に、世界平和と開発を達成する外交政策をしなくてはならない。地球は静止する事はなく、常に動き続けているため、グローバルな世界に対し行動しなくてはならない。パラダイムシフト、つまり見方と思考方法を変える事が必要とされているのである。

グローバリゼーションが進む中で、新たな外交への挑戦が生れた。今は政府だけが外交に携わる時代ではなくなっており、また外交と内政の相互依存関係が生まれてきている。これは、特に民主主義国において、「外交の大半が、内政要因によって影響されている」様な状態をさす。超大国である、アメリカ合衆国では、他国ではなく、自国内での人々の声が国の外交を左右しているのである。グローバリゼーションの下での課題として上げられるは、1貧富の格差の拡大 2金融経済の不安定化 3地球環境の危機 4感染病の蔓延 5麻薬・人身売買 6小規模兵器 7国内地域紛争 8文明の衝突 9地域社会の均一化である。地域社会の均一化とは、世界のどこに行っても同じ様なものを食べ、様々な人種が入り乱れている状態をさす。21世紀の国際社会において、1国の内政のみ、または2国間外交では処理できない問題が主であり、国際機構の役割も変わってきていると言える。第二次世界大戦後、1945年より、世界は二極体制であった。しかし、1990年にソ連が崩壊すると、一極体制が誕生し、2000年にはアメリカ覇権主義が取られていた。この頃から、グローバル化が大きく進み、安全保障のあり方も大きく変わり、自由民主主義やMDGs、平和構築という事が言われるようになった。しかし、2008年には、世界金融・経済危機が起こり、自由主義の行き詰まり感が出てきたと云えよう。そして、G7の指導力が崩壊し、G20創設され、多極化経済強調時代の幕が開けた。そして、現在は金融資本主義の時代である。資本主義には沢山の種類があるが、金融資本主義は、貨幣がただ単にお金の役割をするのではなく、商品として取り引きされることが特徴である。
3)現実主義者
さて、現実主義者による外交に戻ろう。現実主義とは、自国の安全と国益を守るもので、そのための手段が外交であり、これが外交の唯一の役割であるという考えである。現実主義の起源をみてみるとギリシャで、ブラトン・ソクラテスなどが政治というものは、人徳をもって、正義をすることだという考えを広めた。しかし、トゥキュディデスは、そんな貴族的な考えだから、アテネはスパルタに負けたとし、現実的には力を持つ事を主張した。東洋では、孫子が「敵を知り己を知らば、百戦危うからず」とのべ、戦争で勝つ事は、武器を持って戦場で戦うことだけでなく、お互いに関する知識の重要性を説いたのは有意義であろう。そのほかに、オーガスティン卿の正当なる戦争論(Just War)やMachiavelliの「君主論」は人間という者は、邪悪な存在であり、戦争はなくならず、いかに勝つかということに専心すべきてあるいう考えである。
先ほど触れた、ハンス・モーゲンソウーは20世紀の現実主義者として知られているが、政治は人間の性格を根本にしており、利益とは権力により決められ、外交とは、政治と文化によりなし、利益によりなされるという考えである。1948年、彼はPolitics Among Nationsという著書を出し、国家に道徳心を求めることは、期待はずれであると述べている。国家は国家の利益のために行動するだけであると説いている。