2010年度法政大学法学部
「国際機構論」
■テーマ : 「ミレニアム開発目標の成果と問題、今後のチャレンジ」
■講 師 : 長谷川 祐弘教授 法政大学法学部教授
■日 時 : 2010年9月28日 (火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎306教室
■作成者 : 鈴木 渉平 法政大学法学部国際政治学科2年
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<Ⅰ.講義概要>
1.はじめに
(1)先週ニューヨークで行われた国連特別総会にて、いかにしてMDGsに近づけるかという議論が行われた。本講義では3つのセクションで行われた。第1セクションでは8つの目標に目を通し、第2セクションでは各々の目標に対し国際社会がどのように取り組もうとしているか、問題点・今後のチャレンジについて考え、第3セクションではビデオを見た。
2.ミレニアム開発目標とは
(1)2010年開発目標報告書から、8つの目標に目を通していく。
目標1 「極度の貧困と飢餓の撲滅」
~1980年から2015年までに、一日一ドル未満で生活する人々の割合を半減させる~
<成果、現状>
・割合であり、人数ではない。
・東アジアは非常に成績がよく、半減以上の成績を出している。これは中国とインドの成果が大きく影響している為である。
・南アジア、アフリカ、ラテンアメリカなどは多くの問題が山積みとなっている。
・グローバル経済危機の中、雇用が減り失業者があふれている現状。国と国での格差は激しく、また農村部と都市部の格差も拡大している。
目標2 「普遍的初等教育の達成」
~全ての子供が男女の区別なく初等教育の全過程を終了できるようにする~
<成果、現状>
・多くの国において達成度は非常に高い
・サハラ以南アフリカ、南アジアなどが非常に上がってきた。
目標3 「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」
~2005年までに初等・中等教育において、2015年までにすべての教育レベルで男女格差を解消する~
<成果、現状>
・東アジアでは一定の成果が出ている。
・一方で、南アジアでは遅れをとっている
・初等教育では達成度が高まっているが中等教育ではどこまで辿りつけるのか、高等教育ではまだ多くの努力が必要である。未だに多くのチャレンジが残っているといえる。
目標4 「幼児死亡率の引き下げ」
~1990年から2015年までに、5歳未満の幼児の死亡率を3分の2引き下げる~
<成果、現状>
・アジア全体で一定の成果が出ているといえる。
・しかし開発途上国全体を見てみるとまだまだ死亡率が高い現状である
目標5 「妊産婦の健康状態の改善」
~1990年から2015年までに、妊産婦の死亡率を4分の3引き下げる~
<成果、現状>
・原因の一番高いのが大量出血である
・長谷川教授の経験談によると東ティモールでは帝王切開ができる医師が1人しかいなく、この場合農村部で帝王切開が必要な出産があった場合母子共に命を落としてしまう。ヘリコプターを使用するのは軍事違反であり使ってはいけないということになっているが、黙認して使っていた場合もあったとのこと。途上国における妊産婦の出産は非常に難しい問題だとおっしゃっていた。
目標6 「HIV/エイズ、マラリア、其の他の疾病の蔓延の防止」
~2015年までにHIV /エイズの蔓延を阻止し、その後減少させる~
・ここでは成果と現状について話されず、エイズによる死亡者はどの程度変化したか、アジアや日本においてどうなっているのか、などの問題提起をされた。
目標7 「環境の持続可能性の確保」
~持続可能な開発の原則を各国の政策やプログラムに反映させ、環境資源の喪失を阻止し、回復を図る~
・ここでも成果と現状には触れず、CO2排出量の増加率はどの地域が最大か、地球温暖化対策の実施は可能であるか、安全な飲料水と基礎的な衛生施設を持続可能な形で利用できない人々の割合を半減することは可能であるか、などの問題提起をされた。
目標8 「開発の為のグローバルパートナーシップの構築」
<成果、現状>
・ODAは増えている
・人道援助は非常に増えている
(2)統計上の国連の地域分類
①発展途上国はアフリカ、特にサハラ以南アフリカ(アフリカ諸国)と北アフリカ、中近東(西アジア)、南アジア、東南アジア、そしてオセアニアを指す。
②先進国はOECDに加盟している国々を指す、最近では韓国も先進国の仲間入りをしたといえる。
③CISなども重要な意味を持つ。
3 ミレニアム開発目標の詳しい成果と現状
(1)今までミレニアム開発目標の各々の目標について見てきた。そこで次に各々の進捗状況について見ていく。
(2)今から2015年の目標を達成する為には迅速な対応が必要である。
グローバルな経済危機に直面している世界経済の中、2015年までには世界の貧困層を15%減らせる見込みがあり、1990年との比較では半減する見込みである。
子供の就学率ではアフリカなどで一定の成果を見ることができる。
幼児死亡率は2008年までに400万人減らすことができた。
ITの分野では世界全体として非常に大きな成果を出しており、携帯電話の所持者は途上国においても増えている。
一方で、森林破壊は今でも恐ろしいスピードで行われており、深刻な問題の1つとして考えられている。
(3)それぞれの目標についてみていく
[目標1] 危機発生まで貧困の深刻度はほぼ全地域で緩和。
完全かつ生産的な雇用と、女性や若者を含め全ての人がdecent workにつけるような社会を作るのが目標だが、失業者が増大する中で多くの労働者が脆弱な立場に置かれている。
飢餓はグローバルな食糧・金融危機のあおりを受け2009年に拡大した恐れがある。飢餓終焉に向けた前進はほとんどの地域で停滞。(アフリカでは金融危機の煽りをあまり受けなかった。)
ある程度の前進にもかかわらず、途上国の子供4人に1人は依然体重不足児。
農村部の体重不足児は都市部の2倍。一部地域では体重不足児が貧困層に劇的に集中。
(CISはほぼ横ばい)
4200万人以上が紛争や迫害によって避難民に(避難民総数に対して国内避難民の比率が非常に高い)。
[目標2] 日本における取り組みは非常に良いとされている。
多くの貧困層が進歩を遂げているが、2015年までの達成は望みは非常に薄いとされている。
学校に行っていない子供の大多数は南アフリカと南アジアに集中している。
普遍的教育の実現を拒むのは不平等の現実であり、富裕層と貧困層の格差が非常に大きい。
[目標3] 着実な前進がみられたが、一部地域の女子には教育を受ける権利は未実現となっている。
年長の女子にとって、貧困は教育への大きな障害(家事など)となる。
CIS除くすべての開発途上地域で男性が有給労働者で女性を超過している。
女性は手当も保証もないインフォーマルの雇用に多い傾向があり、トップレベルの職は男性が圧倒的多数。
[目標4] 肺炎と下痢症の予防をすれば数百万人の子供を救うことが可能であるという統計。
資金不足を解消できなければ麻疹予防は短期的なものになる可能性が高い。
[目標5、6] ほとんどの妊産婦死亡は回避可能であるが、リプロダクティブヘルスは地域間・貧富の差がある。
その点において東アジア、東南アジアは非常に良い成果を出している。
10代の母親というのは減っていない現状があり、教育の重要性が見えてくる。
避妊、エイズ教育は一定の成果を出しているが、未だ浸透していない地域がある。
ここでは貧困と感染症の関わりを考えることが非常に大切であり、解決しなくてはならない問題の一つである。
[目標7]CDSの消費量が減ったという成果が上がっている。
絶滅の危惧に瀕している生物が非常に多い現状がある。
[目標8] 日本は、政府主体となってどのような援助をしていくかという声明を出す必要がある。
4.今後の日本とアメリカの援助の形
(1)日本:2015年までに保険と基礎教育の2つの分野において約7200億円の支援を行う管コミットメントを発表
(2)アメリカ:与えるだけの支援政策から途上国の自立を促す支援に移行する流れである。それを踏まえMDGs達成の為のあらゆる努力を行うことを約束した。