【国際機構論】 2010年6月1日狩野明香理様 国連大学Programme Associate 

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2010年度法政大学法学部
「国際機構論」
■ テーマ : 「国際機関の財政的基盤と資金源」
■ 講 師 : 狩野 明香理 氏 国連大学私費留学生育英資金貸与事業
■ 日 時 : 2010年6月1日(火) 13:30~15:00 
■ 場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 407教室
■ 作成者 : 鈴木 渉平 法政大学法学部国際政治学科2年

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              <Ⅰ.講義概要>

1.はじめに
開発援助や平和構築などの国連の華やかなミッションも、資金がなくては遂行できない。「財政」は、「主権平等原則」の大前提の元、多種多様な国家が自国の利益に繋がるよう交渉を行っているという点で最も重要な政治的分野の1つである。同時に、この予算関連分野は唯一法的拘束力があるといわれている点において他の分野とも一線を画している。分担率を決定する際、果たしてどのような状態が「fair」なのか、難しい判断を求められている。
国連、国際機関はそれぞれの機能や役割に適した独自の財政基盤を持っている。その中で、特に国連とそのファミリーの財政的基盤と資金源を探り、その①性質、②発展過程、③問題・課題点について明らかにする。

2.予算
(1)予算根拠 国連憲章第17条によると総会によって予算が決定されるということが明記されている。第18条には総会の各構成国は一票の投票権を持つ、つまり主権平等主義が明記されている。そして決定には3分の2以上の承認が必要である。コンセンサスを求めるのが理想だが、各国の主張・状況を踏まえるとコンセンサスに到達するのは限りなく不可能に近いだろう。

(2)予算作成過程 各部局が事務総長に概算要求を提出し、事務総長は予算案を作成・承認する。それを行政財政問題諮問委員会にて審査し勧告を含む報告を作成される。それを第五委員会にかける。第五委員会を通過し、総会にて採択。
活動計画については予算案と一緒に計画調整委員会に提出し、コンセンサスにて予算上限と計画内容を決定する。
予算を審議する上で第五委員会が非常に重要になっている。全ての加盟国が参加し、年に3回のセッション。最も影響力の高い委員会とされている。

(3)予算の種類 国連の予算は2年間編成で作成されている。それを2で割り1年の予算を割り出している。国連の予算は2つに区分されており、1)通常予算、2)平和維持活動予算、に分けることができる。
1)通常予算では5つの主要機関の活動経費および行政経費、国際刑事裁判所、国連補助機関やプログラムの活動経費の一部に充てられる。採択方法は原則コンセンサスで決定。加盟国の分担金によって構成されている。
2)平和維持活動経費では、安保理にて制定された平和維持活動の活動経費、国際刑事裁判所の活動経費の一部に充てられる。基本は各国の分担金で構成されているが一部拠出金もある。
また国連とは独立した機関で国連専門機関がある。この機関の財政基盤は分担金と拠出金によって構成されている。
UNDPなどの国例計画と基金は、主に拠出金によって構成されている。

3.収入
(1)財源
1)分担金とは。 各国が査定された分担率に従って払っている税金のようなもの。これには3つの例があり、全ての加盟国において同一のレートを利用しているもの。2番目に加盟国が独自の支払い能力によって選択するもの。そして最も採用されているのが総会の査定による割当によるもの。この3つが挙げられる。
2)拠出金とは。 加盟国が任意によって拠出している資金。通常予算とは別枠で処理されている。長所としては加盟国に参加義務はないため独自の判断により出資できる。また、加盟国は自国の利益が働くように政治的圧力に利用できる。短所では少数の裕福な国家によって活動が左右されること。為替変動の影響を受けやすいということが挙げられる。
3)出資金とは。 主に世界銀行のような機構が加盟国に政府に貸し付けているお金。
4)回転基金 5)課税 6)営業収入 7)借入金 8)起債 9)国連開発計画の予算配分 10)信託基金 11)寄付・贈与

(2)国連:分担率の査定
1)通常予算においてどのように分担率がきまっているのか。 支払い能力によって決まってくる。それはGNI(国内総生産)をUSドルに換算し、3年間と6年間の平均を出す。それを海外債務で引く。そして低所得割引調整を行う。下限が0.001%、LDCの上限は0.010%、そしてアメリカの上限22%以上は超えることはない。
3年間と6年間のGDIの平均が分担率になってくる。
2)各国の反応
G77・中国:現行計算式採用希望、 EU:現状維持は受け入れられない、 日本・アメリカ:さらにfairな、より現状に即したものにするべき、 メキシコ・インド:計算式交渉は建設的な議論に欠ける、 と考えられている。

(3)PKO予算
基本的には通常予算の分担率を採用している。それに加えて3つの事が考えられる。
1)安保理常任理事国は発展途上国のディスカウント分を負担する、2)安保理常任理事国以外の国には原則通常の分担率を採用される、3)A~Jまでの10レベルに分けられ、発展途上国は自国の経済レベルによりディスカウントレートが適用された分担率が採用される。

(4)滞納金問題
国際連盟の反省を生かして、規則が設けられた。
1) 各国の支払い状況 
2010年、26カ国が期限までに完納した。これは国連予算の11%。5月末の時点で57カ国が完納。それでも全体の約65%。日本は毎年大体4月に支払う(3~8か月遅延)。アメリカは2009年6月末日で8億5600万ドルの滞納金。
このように深刻な資金不足状態なのである。
2) 深刻な資金不足の原因
原因は予算配分の非効率性、加盟国増加による組織の肥大化、活動分野の拡大、平和維持活動などの特別経費の増大、加盟国の滞納金問題、が挙げられる。
これに対し、利子の導入が提案されているがアメリカを中心とする加盟国から反対され、できていない現状がある。

(5)国際課税
課税することによって国際機関の安定した収入を増やそうとするもの。
しかし、アメリカの強い反対があり実現は困難である。

4.監査
(1)効率性、透明性、説明責任を機能させるため検査や評価などを行うもの
(1) 主に3つの機関があり、内部監査部、会計検査委員会、国連合同監査団によって監査が行われている。

5.日本と国連通常予算、平和維持活動予算の分担率について
日本は分担金の負担が大きすぎるという意見がみられる。 現在日本の分担率は12.53%、と世界で第2位の分担率。近年日本の経済力の低下によって分担率も下がってきている。財政貢献を武器にしてきた日本の発言力の低下が懸念されているが、20%を超えていた2000年時にどれだけ発言力を持っていたかには疑問が残る。
総会によって決められた分担率で必ずしも不公平とは言えないが、加盟国にとってより公平な分担率の導入が望ましい。

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              <Ⅱ.質疑応答>

1.分担金について
Q.日本と中国のGDPはほとんど一緒なのに日本の分担金が12.53%に対して中国が2.6%。この差はどこから生まれてくるのですか?
A.まず、中国は人口が多いというのが挙げられる。GDPは高くても一人あたりのGDPが少ないという現状がある。また、中国は低所得割引調整を受けているということも挙げられる。今後中国の分担金が上がっていくことが予想される。

2.アメリカの滞納金問題について
Q.アメリカの今の滞納している分担金はどれくらいですか?
A.2年間の総額以下。制裁されない程度に払っている。

3.途上国のディスカウントについて
Q.ディスカウントをする際の自国の経済レベルを計る基準はどうなっているのですか?
A. 原則的には各加盟国に自国の数値を国連統計局に提出している。国連統計局にその数値を提出できない場合は、統計局が独自の調査を行う。

4.日本の分担金について
Q.日本が分担金を多く出すことによって、特に国連の地位において優位になっていることはあるのか?
A.一概には言えないが、日本の場合、分担金以外の要素が発言力の強弱に影響をおよぼしているのではないだろうか。また、特にUNDPやUNHCRなどの国連機関・計画・基金においては拠出金額によってある程度の影響力を及ぼせるということはあるのではないだろうか。

5.拠出金について
Q.世界銀行では拠出金の割合によって投票権が変わるが、国連は違って一国一票。今後どうなるのか?また、拠出金に大きな差があるのに一国一票制というのは本当に民主的なのですか?
A.国連改革は非常に難しい問題。国連は国家同士が話し合いをする場でもあり、外交をする場であり、多種多様な役割を持っていて世銀とは趣旨・趣向が違う。それぞれの機関は個別の役割に合った体制を築いている。
また、それが本当に民主的かどうか断定することは難しいが一つの民主主義であることには間違いない。ただ、何がより望ましい形式であるかは常に探求されるべきだと感じる。

6.政治力について
Q.監査をするのではなく国連では仕分けを行わないのか?分担金の%と政治力の比例で、アメリカの場合は高い分担金があるが多くを滞納していることにより政治力があると考えられる。この先強大になってきている中国でも同じことがおきるのではないだろうか?
A. 国連ファミリー内での縄張り争いなど、国連が今後更に改善できる余地はあると思う。しかし、必ずしもオーバーラップしているからといってなくせばいいということではない。2点目について、中国が今後経済力を増加させた際、分担率をどのように外交手段として利用するかも考慮した上で、加盟国が分担率のより公平な計算方式を導入するべきだと考える。
7.地域機構について
Q.国連におけるEUの地域機構としての力はどのようなものなのか?日本の地位が下がる中アジアでチームを組んで国連に影響力を与えていけるのか?
A.EUとしての発言力を発揮できているのではないか。イギリス、フランスという拒否権を持っている国が含まれているということもあり、経済的にも安定・強大化していることから一つの強大な国家として見ることもできるのではないだろうか。また、EUの国家はアフリカに多くの旧植民地を持っており、財政的にも文化的にも強い関係性を保っている国家もある。2点目について日本がアジアにおいてチームを作ったとき、EUのような強大な組織になるのは歴史的・民族的にも難しいと感じる。

8.日本の今後について
Q.分担金の減少により国連への発言力が低下していく中で、日本は国連を使うのは可能なのか?
A.外交手段は国連だけではない。日本が今後経済力の減少と共に国力が弱くなることも想定した上で、バイ・マルチ、国際機関など様々な手段を利用し、積極的なリーダーシップを築き、発揮していくことが必要なのではないだろうか。

狩野明香理
2002年ロンドン大学ロンドン政治経済学院(London School of Economics and Political Science)にてBSc International Relations (Honours)取得。その後、留学事業専門職員を経て、現在、国際連合大学でProgramme Associateとして発展途上国の人材育成を目的とした事業の運営・広報などを担当。

Questions and Comments from students

1.滞納金問題などについても詳しく具体例を挙げて講義をしてくださったので、とても興味深かったです。ありがとうございました。

2.UNの予算を考える上で、活動、マンデートを見直すことが非常に重要なのではないかと考えました。UNUの存在意義が優秀な研究にあるのなら、今UNのどこでもきちんと見直せていない各マンデートの意義や重複しないような役割分担といったものをUNUが研究すればUN全体にとってもUNUにとっても分担金を拠出している加盟国にとっても良いのではないでしょうか。

3.日本の発言力の低さと分担金の関係について興味を持ちました。発言力を上げるために何をしたらよいのかと思いましたが、UN内で分担金もこれから下がって行き、ただでさえ低い発言力がさらに下がるなかで本当に国連との外交を進めていこうと考えているのでしょうか。国連を使うしかないのではないでしょうか。

4.日本の分担が12%に下がったということを聞いて敵国条項をなくし常任理事国入りしてほしいと考えている身としてはその障害にならなければいいなと思った。

5.最後、日本の国連における地位のお話が大変興味深かったです。日本は交渉力が弱いとのことでしたが、今後その点がどう改善され、国際社会に反映されるのか気になりました。

6.分担金から見る日本の立ち位置がわかってよかった。今後アジアの諸国の地位が上がっていく中で、日本がどう国連と結びついていくのか見ていきたいと思う。

7.日本には国連に多額の分担金を払っているのに、非常任理事国で、その影響力は小さいと前々から言われている。しかし、お金=権力という構図は何か欠陥があるように思える。十分な資金を持たない小国であっても、世界平和を維持するのに大きな役割をもつこともあると考えるからだ。そう考えると、国連の財政的基盤について知ることは大事だと思う。