- 訪問先:グラミン銀行、BRAC、JICAなど
- 研修期間:2008 年9月8日~9月18日
- タイトル:『バングラデシュにおける各アクターの活動と課題』
- レポート作成者:篠田優美
1. バングラデシュという国
バングラデシュといえば、いまだに「貧困の国」というイメージが根強い。
アジアの中でも最貧国の1つに入るバングラデシュは、特に農村部の貧困が深刻で、農村部に暮らす人のうち約半分が貧困層である。
しかし、実際に行ってみるとその印象はがらりと変わる。
首都ダッカは、人、人、人!とにかく、人であふれている。
こうした活気ある雰囲気に圧倒され、「貧困」というマイナスイメージは初日で一気に吹き飛んでしまった。
さらに、驚いたのは想像以上に携帯電話が普及していることだった。
携帯電話のレンタル業が1つのサービス業になっていることは知っていたが、携帯電話を持つ人も今ではそう珍しくないようだ。
その一方で、都会から1時間ほど車で移動すると、田んぼや畑が永遠と広がっていくような光景も見られる。
ダッカでは忙しなく一日がバタバタと過ぎていくが、農村地帯ではゆっくりと時が流れていくように感じられた。
それと同時に、大勢の人とリキシャであふれる都会との圧倒的な経済格差も強く感じられた。
2. マイクロクレジットがもたらすもの
バングラデシュは近年、縫製業の発展により安定した経済成長を続けている。
それに伴い、以前は外に出て働くのが難しかったイスラム教の女性達も外で働けるようになった。
また、マイクロクレジットの普及により、草の根レベルでも女性のエンパワメントが図られている。
研修旅行3日目、グラミン銀行が行っているマイクロクレジットシステムを利用している女性達が週に1回集まるセンターを訪問した。
一番長い人では、26年間もマイクロクレジットを利用している女性がいた。
かつてはわらの家に住んでいたが、毎年少しずつ借りる額を増やして、今ではトタン屋根の家を2軒も所有しているという。
マイクロクレジットを利用することによって、経済状況が良くなっただけでなく、生活面でもさまざまな変化が表れているようだ。
グラミン銀行のメンバーには『16の決意』(http://www.gdrc.org/icm/grameen-16.html)というルールがあり、
メンバーは毎週センターに集まるたびに、必ずこの『16の決意』を唱えなければならない。
その甲斐あって、生活面でいろんな改善点が見られるようになったという。
例えば、家をこまめに掃除するようになったり、清潔な水を飲むようになったり、子ども達をちゃんと学校に行かせるようになったり。
ささいなことではあるが、750 万人ものメンバーがこれをしっかりと守れば、大きな意義がある。
グラミン銀行は、女性の経済的自立を助けるだけでなく、生活面でも大きな影響を与えていることがわかった。
3. ノンフォーマル教育の必要性
研修旅行の7日目には、BRAC と呼ばれるバングラデシュの中でも一番巨大なNGOが運営しているノンフォーマル型の小学校を訪ねた。
バングラデシュの教育状況は初等教育の就学率が90%以上と非常に高い数字を出している。
しかし、現実には貧しさや学習についていけないことを理由に辞めてしまう子どもも少なくない。
そんな子ども達を対象に少人数式で、楽しく学べる教育環境を提供しているのが、BRAC が運営する小学校である。
BRAC の小学校は子ども達が再度中退してしまうことがないように、楽しく学べる環境づくりに力を入れている。
例えば、世界の国名を覚えるのにも、ゲーム感覚でリズムをとりながら、皆で輪になって1人ずつ順番に国名を言っていく、といった楽しく勉強を覚えていけるような方法に工夫してある。日本で言うと山手線ゲームのような感覚だ。
また、おもしろいのはマイクロクレジットのように少人数のグループを作り、そのグループリーダーが2ヶ月ごとに変わるところで、全員がリーダーを経験することによってリーダーシップが芽生える効果がある。
バングラデシュの一般的な小学校は、1クラス60~70 人程度で、学習の仕方も暗記が中心の詰め込み型教育だという。
それに比べ、BRAC が運営する小学校は少人数制で、授業に積極的にゲームを取り入れるなどの工夫をしており、
どの生徒も楽しそうに勉強している姿が印象的だった。
いくら全体の就学率が高かったとしても、大切なのは数字ではなく、教育の質であると感じた。
4. 農村開発の重要性
今回研修旅行で各機関の活動を見て、女性の開発と同じくらい力を入れていると感じたのが、農村開発だった。
農村部では長年にわたって、インフラが未整備だったり、住民が求めるサービスがなかなか住民に届かなかったりという問題が起きている。
そこで、住民と末端の行政機関を結び、住民が本当に必要とするサービスを提供できるようにしたのが、
JICA などが行っている農村開発プロジェクトだった。
私達が見せてもらった村落委員会の会議では、農村部に住む住民が定期的に集まって、
自分達の農村が抱える問題を、自分達で考え、話し合う姿が見られた。
自分達で考えた問題点を直接行政機関に伝えることによって、住民が本当に求めるサービスが届けられるようになるのである。
例えば、小学校はたくさんあるのに、教師の数が不足しているため、本当は教師の数を増やしてほしかったとしても、
それが行政機関には伝わらず、必要もないのに学校の数だけさらに増やされてしまったりすることがある。
このように、本来必要なサービスが届かず、その代わりに必要のないサービスばかりが届けられてしまうケースは少なくない。
しかし、農村部の要望がしっかりと行政機関に伝われば、このような問題はなくなり、住民が求めるサービスのみが届けられるようになる。
また、このような農村開発のプロジェクトでも、女性の参加が積極的に後押しされているのが特徴的だった。
以前は男女別々に話し合ったり、男性が中心になって物事を決めるのが当たり前だったが、それも今では大きく変わり、男女一緒に話し合うようになったという。
ただ、私たちがいたせいか、女性達が恥ずかしがっていたのか、今回見させてもらった会議では女性がほとんど発言することはなかった。
5. 今後の課題
冒頭にも書いたように、バングラデシュの大きな問題は、経済格差である。
今後も縫製業の発展や多国籍企業の参入によって、ますます発展していく都市部とは対照的に、
8割近くの人々が暮らす農村部ではまだまだ開発が遅れてしまっているのが現状だ。
多くの農村部では、貧しくても、国内NGO が運営する小学校に通ったり、マイクロクレジットを利用することが可能で、
国内NGO の活動規模の大きさやその質の良さには本当に驚かされた。
その一方で、本来ならばこれらのNGO が行っている活動をやるべき行政機関が機能せず、
NGO がやらなければならないという現状に、今後の課題があると感じた。
サービスがあっても、サービスの質にはまだまだ問題がある。
また、実際にバングラデシュに10日間滞在して、日常生活の中で問題だと感じたのは、停電である。
お風呂に入っていると突然電気が消えて真っ暗になってしまったり、クーラーが止まって汗だらけになってしまったり、
停電には何度も泣かされた。首都ダッカに、次々と縫製工場が建てられていく中で、いかに電気を確保していくかも重要な課題の1つではないだろうか。
6. バングラデシュの豊かさ
バングラデシュは、経済面では確かにまだまだ『貧しい』国であるが、人口の多さから言うと、人材資源は本当に『豊かな』国である。
また、日本大使館を訪問した時に、ある団体が行った調査で、
バングラデシュの国民の幸福度ランキングが世界第一位であったという話を聞いて、非常に驚いた。
今回、何日かバングラデシュに滞在し、毎日たくさんのバングラデシュ人と接していくうちに、その理由がなんとなくわかるような気がしていった。
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