■テーマ : 「国際公務員制度の意味と未来」
■講 師 : 伊勢 桃代 氏 日本国連協会理事
■日 時 : 2009年5月19日(火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見校舎 309教室
■作成者 : 末藤 千翔 法政大学法学部国際政治学科3年
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<Ⅰ.講義概要>
1.国際公務員制度とは
国際連合(国連)は、国家を超えた世界的視野に立つ仕事をする機関であり、ここに働く人たちは国際公務員として扱われる。 国家間や都市間の連携を構築した例は歴史上古く、古代エジプトやバビロン、古代ギリシャの都市にも見られるが、超国家的国際公務員の実現は、1919年の国際連盟に始まったと言える。
1)国連設立までの歴史的背景
国際連合組織の基盤は、1919年の国際連盟であるが、それ以前から存在したILO(International Labour Organization 国際労働機関)もこれら組織の設立に寄与している。 よって、国連の機構の基は、20世紀半ばごろから考えられていたことになる。当時、ヨーロッパが強い影響力を与えたことは確かであり、西欧型の組織である。
しかしながら、公務員制度の根本は変わらないとしても、国連はその時代背景と共に人事政策など経営は試行錯誤を繰り返しているのである。又、国連機関の事務所では、その所在する国や地域の経営文化によっての違いも生じている。
2)超国家的組織の制度
国連の制度の基となったのは、英国官僚制度であると考えられるが、その背景としては、当時の英国が国際社会において非常に権威があったからのみでなく、大英帝国が宗主国として、植民地を統治していたという歴史的背景がある。 同様にフランスの制度も国連の経営基盤となっている。
3)機構・組織に必要とされる要素
i.国際的事業は政治、文化、歴史等の違いを包容し、国益の事情を理解し、合意を達成することが重要であり、この為に組織としての中立性、公平性の観点から地理分布(加盟国全部から職員を集める)を獲得する。
ii.国際公務員は国家公務員とは異なり、超国家的な組織の人材であるという観点から国家からの独立と中立を保つ上に、世界レベルでの最高の能力と効率が必要とされる。
iii.国連で働くということは、単なる仕事ではなく人生そのものである。それ故職員一人ひとりの能力はもとより、生き方、考え方、価値観すべてが大事である。
4)国際公務員制度の基本
i.国際公務員の給与形態
国際公務員が絶対的な中立を保つためにも、その給料が世界で一番高い国家公務員の上に決められている(ノーブルメイアー プリンシプル)。最初の基本は英国公務員制度であるが、現在の水準は米国である。このプリンシプルは、現在幾つかの理由で実施が難しい。どの国の公務員にしても、世界最高の水準として取り上げられることは望んでいない。 又、どの国が最高なのかを決めるのは難しい。実際、異なった制度の給料の比較はとても難しい。又、国連の組織や活動も多様化し、新しい契約体系も必要となり、複雑となっている。
ii.終身雇用制度
国連は中立・独立の観点から、終身雇用をその基本とした。 時代に合った最高能力の獲得、次世代への移行、財政緊迫状況などの理由から、終身雇用は廃止に向かう傾向にあると言えよう。
2.人材管理の現状とは
1)地理分布
前述3― i で述べたように、採用の際には「地理分布」を考慮する。方法としては、分担金に比例した「望ましい職員数の枠」を各国別に設定し、人事採用の基本としている。実際の計算の仕方は複雑なので、ここでは細かい説明をしないが、おおまかに言えば、通常予算に計上されているポストの40%を全加盟国に配分し、残りのポストを各国の分担金の分担率によって配分するというものである。
2)人材管理
採用方針や人材管理は国連の各機関によって異なる。 しかし、国連の中核を担う精神の中立性・独立性や女性採用の重要性などは、国連の一貫した政策として行われ、国連人事の全体を司っている委員会がInternational Civil Service Commission (ICSC 国際公務員委員会)である。
3)経営理念
国連の経営理念は、国連憲章に明記されている。 憲章を実行するのが国連事務総長の役割である。よって、経営と運営については、事務総長によって異なる。
事務総長の中でも殊に歴史的にその貢献を強く記憶されているのは、スウェーデン出身のダグ・ハマーショルドである。国連事務局の独立を強く主張された事務総長であった。
ここに、ハマーショルド事務総長のお言葉を引用する。
“ If the Secretariat is regarded as truly international, and its individual members as owing no allegiance to any national government, then the Secretariat may develop as an instrument for the preservation of peace and security of increasing significance and responsibilities. If a contrary view were to be taken, the Secretariat itself would not be available to Member governments as an instrument, additional to the normal diplomatic methods, for active and growing service in the common interest.”
ハマーショルド事務総長は、上述の職員への言葉を最後として、10日後にコンゴ紛争の中殉死された。
4)結び
今、日本の若者に最も訴えたいことは、政治的無関心でいてはいけないということである。
しっかりと、国内・国際情勢と政治に目を向けて欲しい。
現在、日本国内と国際の場両方でリーダーシップに欠けている。 先進国であるといいながら指導力や影響力に欠けていれば、尊敬はされることはないし、本当の意味で協力する国も少ないであろう。
冒頭でも述べたように、国連での仕事は人生そのものである。皆さんが、強く能動的に進まれるよう望んでいます。
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<Ⅱ.質疑応答>
1. 安保理改革
Q. 安全保障理事会の中立性に対する疑問
A. 安保理改革は大きな課題として掲げられている。現在の体制は戦後の戦勝国の集まりであり、非常に旧体制である。安保理5カ国は核兵器を保有し、輸出する国々であり、そのこと自体に矛盾がないわけではない。5カ国で物事の捉え方が異なり、不条理なこともあるのは事実であるが、5カ国が一概に同じ考えをもつ必要はなく、それが正常に機能している状態であるとも言えるが、なんとかしなくてはならないという議論が湧いている。
現在、安保理に加盟している5カ国を減らす事は出来ないので、増やす方向で考えるしかない。増えるとしても、どこが加盟するか、拒否権はどうするべきかなど課題は山積みである。最近では総会がより活発となり、いろいろな動きをとり、意見している。それに準じて、総会と安保理の関係、それぞれの活動領域が何であるのか、などの疑問が新たに湧いている。
他にも改革が必要な点はある。例えば、国連加盟国192カ国の合意を作る事が非常に困難であること。今までの国家体制がどうなるか。国際問題に対して、市民社会がどのように絡んでいくべきなどがある。
2. 日本が果たすべき役割
Q. 今後、日本として果たすべき役割はなにか?
A. 日本国内にまず問題がある。現在の日本ではまず、国内で意見が一致されていない。それでは国際社会で意見はできない。
二つ目に、日本独特の結論を出さないといいう体質が、日本の国際社会における立場を非常に悪くしている。同じく、議論をしない文化も変えていく必要がある。
三つ目に、政治の無関心、特に若い世代の政治的無関心は非常に問題である。
以上の問題にも絡んでくるが、外交の力不足も顕著である。政治家はマスコミ等を気にするあまり、各々の意見を示さない。
最後に、言語の問題。これは文法的な問題ではなく、考え方が欠けていることが原因であるように思える。議論する文化がないことなどから、考え方が豊かでない、故に問題解決能力に欠ける、というように悪循環を引き起こしているように思える。
このようなことから、日本は初等教育からもう一度考え直していく必要があるのではないだろうか。
伊勢 桃代
慶応大学、米国シラキュウズ大学で社会学を専攻、修士号。後にコロンビア大学都市環境研究所にて都市計画修士号。米連邦政府予算によるケネディー・ジョンソン大統領の下での立法による「反貧困政策」に従事。反貧困をつくるための教育政策・消費者のための政策など研究部長として各種研究の実行。ニューヨーク市政府の反貧困プログラムに携わった後、国連ニューヨーク本部に社会開発担当官として勤務。後に、行政管理人材開発部部長。国連大学設立に参加、後に、事務局長に就任。国連退職後、アジア女性基金専務理事兼事務局長を務める。
現在、学校法人 AICJ鷗州コーポレーション理事長、日本国連協会理事などを務める。