「外交総合講座」
■テーマ : 「安保理での日本の活動・安保理改革への日本の方針」
■講 師 : 久島 直人氏 外務省 国連政策課長
■日 時 : 2009年6月10日(水) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 307教室
■作成者 : 與古田 葵 法政大学法学部国際政治学科2年
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<Ⅰ.講義概要>
1.安保理とはどういう組織なのか
安保理は国連憲章に基づいて国際の平和と安全に対し責任を有する組織である。具体的には、最近では北朝鮮の核実験・ミサイル発射、アフリカや中東の紛争などについて議論し、紛争に対しどのような措置をとるかを決定している。安保理は国連加盟国192カ国のうち理事国である15カ国で成り、その安保理での決定事項については加盟国192カ国は従わなければならないという、ある面からいえば非常に強力な組織である。しかしながら、加盟国がそれに従わない場合、国際社会では国内手続のように履行を担保する制度がないため、安保理には限界があるという面も指摘され得る。
2.事例:北朝鮮のミサイル発射・核開発問題
(1)具体的な例として、北朝鮮の問題を取り上げる。北朝鮮の核開発とミサイルの問題については、これまでも安保理は声明や決議を出してきた。今年についていえば、4月5日に人工衛星と称したミサイルを北朝鮮が発射し、日本はそれを安保理決議違反として安保理の緊急会合を要請した。その結果として、4月14日に議長声明が採択された。この議長声明に基づき、3年前に設置されている制裁委員会がミサイル関連リストを更新し、また資産凍結対象として3団体を指定した。
(2)さらに5月25日に北朝鮮が核実験を行ったとの発表を受け、日本は安保理緊急会合を要請し、安保理は決議についてただちに作業を開始することを決定した。現在も決議に関して交渉の最中である。冒頭でも述べたように、安保理は国際の平和と安全に対し責任を有するわけで、今回の北朝鮮のミサイルや核実験もまさに国際の平和と安全に対する脅威である。日本は北朝鮮のミサイルや核実験の問題の影響を最も被る国の1つとして、適切に対応していく。
(3)安保理の意思表示の方法としては大きくいって3種類あり、1.決議 resolution 2.議長声明 PRST 3.Press statement である。決議は義務的で拘束力を持ち得、たとえば制裁措置を決定することができる。議長声明は拘束力を持たないが、4月のミサイル発射の際のもののように、既存の決議をさらに強化するといった内容も可能である。Press statementは拘束力を持たず、また公式文書でもなく、報道機関向けの声明である。例としてはテロや暗殺事件等があった場合にそれを非難するといった安保理の認識を示すため等に出される。安保理の決議は15カ国中9カ国の賛成(及び5常任理事国全ての賛成又は棄権)によって採択される。議長声明とpress statementは、内容については全理事国の合意の下で作成され、票決は行われない。
3.非常任理事国としての取り組み
(1)まず日本の外交政策実現という観点である。再び北朝鮮を例にとると、日本は北朝鮮に対しどのような政策をとるのかという大きな外交政策があり、それを実現する上で安保理ではどのように対応するのかという観点からの対応である。
(2)次に安保理の機能強化への貢献である。安保理が一つの組織としてよく機能するように、理事国として努力するべきであるということである。安保理の本来の目的と役割を効果的・効率的に果たせるようにすべきだという観点である。
(3)最後に常任理事国にふさわしい役割である。後で述べる安保理改革の話と密接に関わるが、非常任理事国として上で述べたような観点を念頭に活動することにより、日本は非常任理事国としてのみならず、常任理事国としてふさわしいとの認識を国際社会において強めるということも念頭においている。日本は1956年に国連に加盟して以来約53年がたっているが、その間安保理には10回当選し、これは回数としては加盟国の中で最多であるが、期間としては一任期2年であり合計約18年半しか今のところ安保理にいない。この構造を改革し、常任理事国を拡大し、日本もその中に入るべきであるという議論が、後で述べる安保理改革である。
4.安保理の実効性、信頼性、一体性
日本が安保理において重視していることは、実効性、信頼性、一体性である。言い換えれば、紛争解決に資する安保理、一致したメッセージの重要性、である。安保理で決定したことが、順守されないとなれば、安保理の実効性、信頼性が失われてしまう。一体性とは、できるだけ理事国の間の意見が割れることのないよう、安保理においてコンセンサスが達成されるような努力である。
5.安保理改革への日本の方針
安保理改革の議論は10年以上も続いている。ある世論調査では国民の7~8割は日本の常任理事国入りを支持している結果も出ており、政府の立場としては安保理改革を早期に実現して常任理事国入りを実現したいと考えている。常任理事国としてのメリットは、日本にとっては国際社会の重要な意思決定に参加できるということである。理事国でなかった場合には、日本の意見が国際社会において十分反映されない可能性があり、安保理に常に席を有していたほうがよいという考えである。一方、国際社会にとってのメリットというのは、他国も日本が常任理事国である方がよいと考えているということであり、現に日本の常任理事国入りを支持している国は多い。これは、安保理が良い成果を生むことに日本は貢献する存在であると認められているからであると考える。
6.安保理改革交渉の現状
安保理改革については国連で、2008年9月に、それまではなかった政府間交渉を開始することが決定され、2月より交渉が開始された。この交渉においては、192カ国の3分の2以上の多数を採ることが出来れば、その案を憲章の改正案として、具体的な安保理改革を行うことができる。今の安保理改革の作業はそのような案を目指してお互いに議論している。3月から4月にかけて5つの要素の議論がなされており、その1つめは理事国のカテゴリー分類、すなわち常任・非常任といった別であり、2つ目は拒否権である。3つ目は地域毎の代表性である。4つ目は拡大幅と作業方法で、幅とは、現在の安保理の理事国数を15カ国からいくつまで増やすかということである。5つ目が安保理と総会の関係である。この議論を終え、5月から6月にかけては、この第1ラウンドの結果を踏まえて、議題の立て方を変え、議論を継続している。
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〈Ⅱ.質疑応答〉
Q.拒否権の問題:東ティモールで赴任していた際に、安保理で決議案を出す際に拒否権をなるべく使用しないように常任理事国が努めたが、現在でもそうであるか。また今回の北朝鮮に対する決議案について時間がかかっているのは中国も含め、常任理事国の全てが賛成しようとしているからなのか。
A.拒否権をなるべく使わないような意識はあると考える。やはり決議を安保理で成立させ、その結果として紛争解決を目指そうと思う国は、賛成を呼び掛け交渉して、できるだけ一致した形で決議を作成しようと思っているので、拒否権に合わないよう努力していると考える。拒否権を持つ常任理事国の方も、拒否権がもつ政治的な意味合いに鑑みて、安易に拒否権を行使すべきでないと考えていると思う。また、北朝鮮に対しての決議案については、日本は実効的で一体性を持った安保理を目指しており、強い成果を迅速に出そうと考えている。
Q.決議案を作成する際に緩い文言を出し、多数の賛成を得る様にしているのか、または強い文言を出し、賛成は少ないが採決されるものを作るようにしているのか。
A.強い文言を出し、かつ多数を得ることを目指すというアプローチ、ということである。困難ではあるが、どちらかを初めから犠牲にして諦める必要はない。結果は交渉次第であるが。
Q.どのように日本の意見を決定しているのか。
A.基本的にはまず外務省の中で関係する部局が議論する。今回の北朝鮮の核実験の問題でも各部局から関係者が種々の面から議論し、その上で日本としての案を作成し、政府全体として上の決裁をとっていく。
Q.これまでの経験の中で国益と国際益が対立した場合どのように対応したか。
A.そのような場合は小官のこれまでの経験ではない。必ずしも各国の意見がいつも一致するわけではないが、たとえば今回の北朝鮮の核実験の問題についていえば、安保理の理事国はすべてこれを非難している。
Q.安保理改革での場面において地位的干渉(代表?)性と安保理の迅速性について、国際の平和に対する脅威がシフトしていく中で国連の安保理が迅速に対応しなければならないという一方で、多くの意見を聞き入れるべきであるという対立した2項があると思うが妥協点としての個人的な意見をお聞きしたい。
A.先ほど述べたように、15の数をいくつに増やすのかという問題も収斂していないのは安保理改革の難しさの表れである。アフリカにしてみれば地域の国の数に比して安保理での席数が足りないと主張している。アジアも同じである。そのことと迅速性は確かに一致しない可能性がある。数が増えれば増えるほど、意見をまとめるのに時間はかかるという側面はあろう。安保理改革がまだ実現していないのは、そもそもこの点を両立させることが難しいからである。3分の2以上の国がよいと考えるバランスがどう落ち着くかであろう。
Q.オバマ米大統領が核ゼロ宣言をしたが、現実的に可能か、またその際に障壁となることは何か。
A.直接の担当ではないため、お答えは控えたい。
Q.日本が常任理事国入りを果たすために1番必要なことは何か。また中国は日本の常任理事国入りをどう考えているのか。
A.2つ目の質問に対して、2005年に安保理改革の機運が盛り上がり、日本・ドイツ・インド・ブラジル(G4)が具体的な案を作成し提出した際には、日中関係が悪化していたこともあり、中国は反対を示していた。それに比べると、現在は支持を明言してはいないが、日中間の共同の文書でも、日本が国際社会で一層大きな建設的役割を果たすことを望んでいる、と述べている。また中国は特に途上国の代表を増やすべきだとの意見であり、改革自体は進めるべきとの考えであると思われる。
一つめの質問については、これを実現するという強い意志である、と思う。
久島 直人
1986年~ 外務省入省。本省の他、在シンガポール、オランダ、ザンビアの各日本大使館に勤務
2005年 気候変動室長就任
2008年 国連政策課長就任