2009年度法政大学法学部
「総合外交講座」
■テーマ :「日本のODAにおけるJICAの役割」
■講師 :村岡 敬一氏 JICA公共政策部
■日時 :2009年5月27日(火)13:30~15:00
■場所 :法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎307教室
■作成者 :酒井 可南子 法政大学法学部国際政治学科2年
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<Ⅰ.講義概要>
1. 開発途上国の状況
(1) 底辺の10億人と呼ばれる極度の貧困状態にある人々が、1日1ドル未満で生活している。また、毎年1000万人近い子供が5歳になる前に死亡し、子供の4人に1人が栄養不良である。毎年50万人の妊産婦が出産に伴う疾病で死亡している。10億人が安全な飲み水を確保出来ず、水をめぐる戦争が今後、起こる危険性がある。紛争終結国の半分が、10年以内に紛争に逆戻りし、グローバル化、地球温暖化はともに貧困層に深刻な影響をもたらす。
(2) 開発途上国は、1人あたりのGNI(国民総所得)によって、後発開発途上国(アフガニスタン、カンボジア、エチオピア、ソマリア他)、低所得国(パキスタン、ベトナム、ケニア他)、低中所得国(ボリヴィア、イラク、中国、フィリピン他)、高中所得国(ブラジル、マレーシア、トルコ他)に分けられる。
(3) MDGs(ミレニアム開発目標)…ゴールⅰ)極度の貧困と飢餓の撲滅、ⅱ)初等教育の完全普及の達成、ⅲ)ジェンダー平等推進と女性の地位向上、ⅳ)乳幼児死亡率の削減、ⅴ)妊産婦の健康の改善、ⅵ)HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止、ⅶ)環境の持続可能性確保、ⅷ)開発のためのグローバルなパートナーシップの推進
2.我が国の政府開発援助(ODA)
(1)ODAは、二国間援助と多国間援助に分けられる。二国間援助には、インフラ整備などを行う無償資金協力、技術者を派遣し現地の人々に指導する技術協力、また、資金の貸付を行う有償資金協力とがあり、中でも有償資金協力では、日本の金利は0.8%と低い。
(2)日本のODAは113億6100万ドルで、全世界の9.48%を占める。世界2位の経済大国がたった10%ほどでよいのかという問題がある。ODAはGDPの0.7%という基準があるが、日本はその割合が先進国中、最下位グループの一つ(22か国中20位)である。
(3)不況に苦しむ日本がODAを続ける意味についての諸疑問。疑問ⅰ)ODAで途上国を支援する余裕があるのかという問題について…貿易などで国際社会との関わりが欠かせない日本にとって、ODAは他国との関係を緊密にする重要な道具である。疑問ⅱ)どんな所に支援しているか…環境問題、感染症対策、アフリカ開発、アフガン復興などを重視している。援助でリーダーシップを発揮して、国際社会での発言力を強めるという狙いもある。疑問ⅲ)日本はいつからODAを拠出しているのか…日本は、第二次世界大戦後の復興の時期にODAの支援を受けていた。日本が援助を始めたのは1954年。
(4)新ODA大綱(2003)…ODA大綱(1992)を改定したもの。目的…国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄を確保すること。基本方針…ⅰ)途上国の自助努力支援、ⅱ)人間の安全保障の視点、ⅲ)公平性の確保、ⅳ)我が国の経験と知見の活用、ⅴ)国際社会における協調と連携。重点課題…ⅰ)貧困削減、ⅱ)持続的成長、ⅲ)地球的規模の問題への取り組み、ⅳ)平和の構築。 政府の支援のみでなく、人々の支援が重要。
(5)我が国のODA実施体制…企画立案は外務省やその他関係13省庁、実施は外務省、JICAなど。
3.新JICAの概要
(1)新JICAのヴィジョン…「すべての人々が恩恵を受ける、ダイナミックな開発」(緒方 貞子さん)使命ⅰ)グローバル化に伴う課題への対応、ⅱ)公正な成長と貧困削減、ⅲ)ガバナンスの改善、ⅳ)人間の安全保障の実現。そのための戦略として…ⅰ)包括的な支援、ⅱ)連続的な支援、ⅲ)開発パートナーシップの推進、ⅳ)研究機能と対外発信の強化。
(2)新JICAの組織体制…本部、在外拠点96か所(近年アフリカを重視)、国内機関17か所
(3)自助努力の支援…アジア・アフリカでの一村一品運動。たとえば、ガーナでのシアバター。女性を中心に読み書き、計算、計量、マーケティングを指導。
(4)安全保障…ボスニア・ヘルツェゴビナの住民自立支援。地域住民の相互理解と協力により民族間の和解促進を図る。
(5)公平性の確保…ボリビアいのちの水プロジェクト。村人が安定して衛生的な水を利用できるよう、水管理委員会に給水設備・サービスの維持管理研修を実施。
(6)インドネシア・パレスチナ等で母子手帳を普及。
4.ODAにおける外務省とJICAの役割分担
(1)我が国のОDAの実施体制…首相、官房長官、外務大臣、財務大臣、経済産業大臣によって行われる「海外経済協力会議」→「国際協力企画立案本部」→「国際協力局」→「JICA」
(2)新JICAの業務と外務省の役割分担…外務省:援助政策の策定を行う。海外経済協力会議の下、外交政策に沿ってODA政策の企画・立案を行い、ODAの重点課題や重点地域・国、供与目標額を設定し、機動的かつ迅速に援助を活用する。新JICA:援助の実施。重要な外交手段であるODAの実施機関として、政府の政策、開発途上国の需要を踏まえ、専門的・技術的知見を最大限に発揮しつつ、効果的かつ効率的に援助を実施する。外務省とJICAの緊密な連携が重要である。
(3)ODAタスクフォース…現場からの視点の強化に向け、大使館を中心にJICAなどの援助実施機関の現地事務所を主要な構成メンバーとして設置。
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<Ⅱ.質疑応答>
Q.アフリカのODA支援について教えてください。
A.昨年、横浜でアフリカ開発会議が行われ、これからはアフリカに対する支援を強化するようになった。
Q.JICAの人員削減について教えてください。
A.JICAに限らず、独立行政法人の人員を一律カットし、政府のスリム化を目指している。
Q.自助努力の、適正価格とは具体的にどのようなものか?
A.たとえば、パッケージなどで商品に付加価値をつけること。また、流通経路の把握やマーケティングの知識を得ることで、収入の向上を目指す。
Q.ミレニアム開発目標は、2015年までに達成できるのか?
A.おそらく、アジアでは達成できる。ただし、富の分配の問題がある。アフリカは、5%以上の成長率があったが、世界的な金融危機の影響を受けつつあり、今のままでは達成は難しい。
Q.内戦国において、自助努力の支援は機能するのか?
A.援助によって紛争などを助長する危険性もあるため、慎重に行うことが必要。事前の調査(アセスメント)を行う。
Q.他国の援助機関と比べて、JICAの特色は何か。
A.日本の強みは、机上の援助のみでなく、現地に入ることをいとわないメンタリティ。また、先進国で借款を一つの組織で行うのは、日本とフランスのみ。
Q.他国の援助機関と協力して援助を行うことはあるのか。
A.たとえばボスニアでは、日本が病院を建て、カナダのプログラムを導入し、一緒に普及活動を行った。ただし、それぞれの支援が重複して、現地の人々を混乱させないように注意が必要である。
村岡敬一(むらおか けいいち)
1980年JICAに入る。国連日本政府代表部、JICAオーストリア事務所長などを歴任し、現在、JICA公共政策部。