【外交総合講座】2009年4月29日 外務省 貴島善子様

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2009年度法政大学法学部
「外交総合講座」

■テーマ : 「日本外交:グローバル・イシューへの取り組み」
■講 師 : 貴島 善子 氏 外務省国際協力局 人道支援室長・気候変動室交渉官
■日 時 : 2009年4月29日(水) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 306教室
■作成者 : 木村 亮太 法政大学法学部国際政治学科2年

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<Ⅰ.講義概要>

1.二つの問い
(1)なぜ日本がこの不景気の中、遠いアフリカの難民を助けなければいけないのか?
(2)ポスト京都議定書交渉で日本国内でも、達成可能な目標を掲げようという産業界と、野心的な高い目標を掲げようとする環境派に意見が分かれている中で、なぜ日本がポスト京都議定書の交渉でイニシアティヴを発揮しなければいけないのか?
この二つの問いについて講義を行いたいと思う。

2.国際政治と外交
(1)まず初めに、国際政治とは何なのか。国際政治はドラえもんの世界と重なるものがある。ドラえもんに登場するのび太の学校のように、席替えやクラス替えのない世界が今の国際政治なのである。また、そのクラスを構成する一人一人のように、国力は各々違うが、一つ一つの国という主体から成り立っている。
(2)では次に外交とは何か。どういう行為なのか。外交とは自分の国の安全や地位を国際社会の中で維持していくために行う行為である。例えば、自国の安全を守るために力になりそうな国と同盟を結ぶ。
(3)そして、ある程度国力がついてくると国際社会への参画や発信をする。国際社会において名誉ある地位を占めたいと思い、提案し、それを実現しようとするのである。

3.情けの意味
(1)日本が行う人道支援や気候変動への取り組みなど、世界のためという情けは人の為になっているのか。ここで、情けは人の為ならずという言葉を取り上げる。この日本の古くからある言葉には二つの解釈がある。ひとつは結局、自分のため。という意味である。日本がグローバル・イシューに取り組み世界に貢献しようとすることは結局自国のためなのである。だからこの一つ目の解釈はその通りなのである。
(2)もう一つは、人の為にはなっていない。という解釈である。確かに、国というものはプライドがあり、情けは人の為になっていない。だが日本がODAのような援助を、情けで行っているわけではないのである。相手の国に同情心でなく、智恵や手や金を与えているのである。だから私たちはグローバル・イシューに取り組むのである。

4.日本の国力と得意分野
(1)世界の国々は自らの国力に合わせて、国際社会の中で何か行動をしようとする。日本は、平和で安定していて、世界第2位の経済力もある。日本にはしっかりとした国力があり、これを生かすには得意分野を使って行動すべきである。
(2)では日本の得意分野とは一体何なのだろうか。日本にはたくさんの得意分野がある。過去に培ってきた歴史や他の国と見比べれば自国の得意分野は分かる。発展のはやさやきめ細やかさ、団結、安定が良いということを知っているということ、話し合いが良いということに価値観をおいていること。さらに日本の経験から、エコカーを作ることができる、道がきれいなことなど、これらのこと全てが、日本が世界に向けて発信できる得意分野なのである。これほどたくさんの得意分野があるのだから、それを世界に向けて発信しようとするのが良い。
(3)また、世界の国の中で、アメリカほどどの分野でも得意分野という国はない。どこかで問題が起こると、すぐアメリカは押し付けられているので、大変なのである。だから、アメリカばかりに任せているのではなく、アメリカよりも日本のほうが得意な分野があれば、そこを生かして出ていかなければならない。これが日本の行う外交なのである。

5.人道支援
(1)人道支援もグローバル・イシューの一つである。日本人の中にはまだ人道支援イコール医療だと思っている人がいる。現代の国際政治の中で災害への対応も人道支援だが、深刻で難題と考えられているのが紛争からくる問題である。
(2)紛争は簡単に解決できる問題ではない。どちらかが完全に悪という訳ではないからだ。だが、解決できない紛争下に、偶然生まれてしまった人たちを、どう救うかというのが人道支援なのである。紛争下では家もなくなり、産業も医療も何もなくなってしまう。また災害でも、例えば中国の四川での大地震やスマトラでの津波など、大規模な災害のときに他国が援助するのも人道支援である。さらに、ミャンマーのように助けをもらうと自国の政権を揺るがす恐れがあるから、助けは受けないというのも、人道支援に関わる問題である。このように紛争と災害は異なるのである。
(3)大きな紛争や戦争が起き、その国から国境を越えて逃げ出した人を難民という。また最近は、国内のある地域とある地域で紛争が起こった場合、その地域からまだ紛争が起こっていない地域に逃げる人のことを、国内避難民という。
(4)紛争はその国が貧しいがゆえに、権力争いなどの問題が生じて起こる。そして紛争が起こることによって産業や農業が崩壊し、ますます貧困が拡大してしまう。貧困が拡大すると、再び紛争が起こる。人道支援は、このような紛争と貧困のスパイラルをどう断ち切るかが課題である。そのため、紛争後の支援で大事なことは、移行期に継ぎ目のない支援を実施することである。例えば難民が、復興支援によってようやくもとの家に帰れた時に、その家の近くの井戸は壊れ、水がないとか、働くところがなくったなどの問題が生じると、また紛争に戻ってしまうかもしれない。よって、紛争後の避難民キャンプに始まり、和平合意をしたら帰還経路上の支援を実施し、そして最後はコミュニティの再建まで継ぎ目のない様々な支援を実施しなければならない。
(5)ここで人道支援をするにあたって重要なのが、国際機関の働きである。例えば、国際赤十字委員会は紛争が行われている最中でも、医療活動を行っている。同様にUNICEFやWFPなどもそうである。このように国際機関でも、自身の中立性を生かして紛争中でも支援を行うことのできる団体が存在する。ゆえに、日本政府も、国際機関の活動はすばらしいと、ODAから拠出するのである。
(6)では、日本は何をすべきなのだろうか。日本がやるべきことは、智恵を出す、金を出す、手を差し伸べる、という3点から成る。まず智恵を出すというのは、紛争と貧困のスパイラルの断ち切り方を国際会議で発言し、政策協議を行うことで考えることである。また、小さいことでいうと、失った農業を取り戻すために智恵を出すというのも考えられる。次に、金を出すというので代表的なものはODAである。日本は、他の国が政策指導に力を入れて、多くの金を投じているのに対し、モデルケースによるプロジェクト支援にODAを多くつぎ込み、結果を残している。だから日本としてもこの方法の良さを世界に広めたいと考えているのである。手を差し伸べるというのは様々な活動があり、PKO、緊急援助隊の派遣、NGOの活躍、難民受け入れなどが挙げられる。これらの分野こそが日本の役割なのである。

6.気候変動
(1)今、地球温暖化が確かに進行している。京都議定書も2011年で終わるので、次の議定書を考えなければならなく、どんなルールにするかというのを現在話し合っている。1997年に京都議定書が採択されてからも二酸化炭素の排出量は増加している。中国やインドなどといった成長の著しい国はもちろんのこと、日本やアメリカでさえ増加している。それゆえに、以前の議定書と一緒のルールでよいのかという事が議論されている。ここで問題となってくるのが、Sustainable Development(持続可能な開発)である。もし、次の議定書で中国やインドのような発展中の国の二酸化炭素排出に義務を課すと、彼らは怒るであろう。今の先進国は過去にたくさん二酸化炭素を排出して、自分たちは制限されて、発展を止められてしまうと思うからである。
(2)日本は公害を乗り越えたから、環境問題には長けていると考えがちである。しかし、この問題はそんなに簡単な問題ではない。なぜなら、世界規模でインパクトが大きいからである。日本も、多量の二酸化炭素を排出して産業を発展させ、今日のような経済力を得た。そして金を得たことで、途上国にも支援が出来ている。このように全世界的な矛盾の中で、どのようなことをするか、どの部分で我慢をするかということが、先進国、中進国、途上国に問われている問題である。
(3)だからこそ、全員が公平であることを納得するような条約を結ばなければならない。そのために、国連というほぼ世界中の全ての国が参加している場で、決めなければならないのである。国連以外の場であるとすれば、あまり意味をもたない。なぜなら、このような問題が全世界を巻き込む問題なので、全員の賛成が必要だからこそ、会議は長引く。
(4)では、ここで問いに戻って、なぜ日本はポスト議定書でイニシアティヴを発揮しなければいけないのか。それは、日本は金も持っていて国力もある国であり、国際社会において名誉ある地位を占めたいというプライドもあるからである。だから日本はこの問題に関してイニシアティヴを発揮しなければならないのである。やるべきことは、人道支援と同じで、智恵や金を出し、手を差し伸べるのである。例えば、手を差し伸べるということにおいては、クール・アースパートナーシップというパッケージを作って、日本の方針に賛成しないなら、支援は行わないという、アメとむちを用いている。これが、日本が国力もある強い国として誇りを持って世界で挑むための、一つの外交の側面である。

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<Ⅱ.質疑応答>

1.国益について
Q.外交政策を通して日本が安保理に入りたいという意味と、気候変動に関する日本の国益について教えてください。
A.安保理に入ることについてだが、安保理に入れば、細かい部分まで決めることができ、今以上に参画することができるようになる。今の日本の国力を考えると、安保理に入っていろんなことを決める力はあるので、安保理に入りたいと思っている。日本が入ってこそヨーロッパやアメリカなどとは違った価値観を持つ国の人が楽しく生きられるようにできる。日本は、昔は違ったかもしれないが、今では発展を遂げた国だからこそ、安保理に入って、昔の日本と同じような境遇の国を助けたい。安保理に入らなければ、安保理の国が言ったことに対してYESかNOしかいえないままである。気候変動での日本の国益も同じことである。日本はアメリカについでお金を払わなければならないので、他の国に勝手に決められるよりか、自分で会議に参加して意見して積算を決めたほうが国益になるからである。また、日本は急速に発展を遂げた国だから、同じ境遇の国のことを考えてあげることが、日本の名誉ある地位を維持するのに大切で、これが国益につながるのである。

2.人道支援について
Q.切れ目のない支援の現場でのNGOと政府の連携の現状
A.紛争時におけるNGOと政府の役割は異なる。政府だと日本という顔が出てしまい、動きにくく、無理に援助すると戦争を拡大するだけである。しかしNGOは、名前の通り非政府組織で現場に入りやすいし、その交渉のプロフェッショナルである。早いうちから隅々まで人道支援を行えて、そのノウハウを知っているNGOにフィードバックしてもらい、PKOに役立て、政府が政府間の交渉し、金の使いどころを決める。このように、連携して支援をしているのである。

3.気候変動について
Q.気候変動における交渉の中で、なぜアメリカとロシアが同じグループにいるのか。そして、金融危機の影響で気候変動に対する足並みが乱れているということについて。
A.なぜアメリカとロシアが同じグループにいるのかということについてだが、一つの理由として、EUが一つのグループを組んだので、他の先進国が固まらなければならなくなったから。グループを組んで自分の経済をコントロールしていきたいEUと、自分の国のことは自分の国でやっていきたいので、緩い結びつきを作ったのが、アメリカでありロシアであり日本なのである。だから、アメリカとロシアは同じグループにいる。ただ、アンブレラグループにはノルウェーのように引き気味な国も入っていて、あまり連結が強いとはいえない。確かに金融危機は深刻。そのせいで、どこも財政は厳しい。日本も厳しく、日本がODAなどで行っている支援はほぼ借金なのである。借金をしてまで援助しなければならないのか。だが経済は相互依存から成り立っているので、相手が倒れたままでは日本の経済にまで影響が及ぶ。また気候変動も日本も含め世界中が直面している課題である。だから日本も支援しなければならない。

4.拠出について
Q.アフリカへのODAと人道支援機関への拠出額が少ないということについて。
A.これは私の悩みである。日本はここ10年の間ずっと不景気だったのでODAは減っている。国民への世論調査でも、ODAを減らすべきであり、これ以上増やしてはいけないという意見が多い。日本では、顔の言える援助でマルチよりバイのほうが良いと意見が多い。これが世論の意見なら、人道支援機関に拠出するより、顔の見える青年海外協力隊などのほうに拠出が向いてしまうのである。よって国際機関への拠出はすごく減ってしまった。だから、これを復活させたいが、日本の景気は依然悪いままなので、増税が国民に受け入れられるのは難しいと思う。

貴島善子
現外務省国際協力局人道支援室長・気候変動室交渉官。1990年、京都大学法学部卒業。同年、外務省入省。在中国日本大使館、国連行政課、アジア局地域政策化、中国課、国際社会協力部地球環境課主席事務官を歴任。