【外交総合講座】2009年5月20日 吉崎 知典様 防衛省

5月20日の外交総合講座は防衛研究所研究部 第5研究室長 吉崎知典様に講義をしていただきました。


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2009年度法政大学法学部
「外交総合講座」

■テーマ : 「日本の防衛政策」
■講 師 : 吉崎 知典 氏 防衛研究所
■日 時 : 2009年5月20日(水) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 307教室
■作成者 : 山崎友紀 法政大学法学部国際政治学科2年

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<Ⅰ.講義概要>

1、日米安保・防衛協力の現状と課題
(1)日本の防衛政策の中心となっている日米安保同盟。他の同盟とは異なり、経済的、政治的な協力関係を基礎としており、アジア太平洋全体の安定のための同盟である。これはもともとソ連・共産主義を封じ込めるための軍事的手段として位置づけられていたが、ソ連崩壊後もこの同盟は公共財として重要なものとして捉えられている。
(2)日米防衛協力の進展としては、冷戦終了後、2+2、米軍再編を経ており、現在のアメリカの最大の関心事は、テロとの戦いである。米軍は日本の安全維持のために必要であり、日本は地理的にも米軍補充のための重要な中継地点である。
(3)16大綱策定後、イラク戦争や日本の陸上自衛隊派遣、人道復興支援をしていく上で、防衛力、軍事力、自衛隊の役割を考える必要性が生じ、テロとの戦いのための同盟への見直しが行われた。一方、米国はテロとの戦いを強化し核兵器等を保持している国には制裁を課すと世界にメッセージを送ったが、北朝鮮はミサイルを作り、核開発を行った。外交はこちらがイニシアチブをとれば相手も反応を示し、危機が深刻化してしまう場合もある。日米同盟は抑止・結束の進化ではあるが、危機の深刻化を招いたともいえる。
(4)日本の安全に深刻な影響を及ぼす事態で日本の周辺を示す周辺事態は、範囲を公式には特定していない。日本の周辺事態に対する抑止・保障をするのは米軍であり、その約75%が沖縄に駐在している。米軍は打撃力をもって対応するが、何を対象とするかなどは決めておらず、その日米オペレーションプランは一切公開されていない。国際的な安全保障環境の改善のために、日米協力は世界的な公共財のような重要な要素となっている。
(5)米軍再編の現状と課題としては、例えば沖縄の普天間基地では、基地返還は13年前に合意しているが、環境問題や住民への騒音被害などを考慮すると資金・時間がかかりいまだに実施されていない。
(6)米軍の世界に占める軍事費の割合は増加し、現在約半数を占めているが、一方、経済力に占める割合は低下している。よって、軍事費の負担を減らすため、同盟国の支援を必要としている。経済力が低下し、テロとの戦いの終わりが見いだせない今、日本のソフトパワーを必要とし、どう軍事力と結びつけるかが課題となっている。

2.国際軍事情勢
(1)北朝鮮は日本にとって脅威となっているミサイルを発射しているが、北朝鮮が自国でゼロから開発したわけではない。
(2)日本のシーレーンにおけるマラッカ・シンガポール海峡の海賊に対して、日本は周辺地域の経済的成長や社会的安定をもたらす事で持続可能な開発を行い、これらの地域に安定をもたらしている。現在はソマリアの海賊が問題となっており、ジブチを拠点とした監視活動にも取り組んでいる。
(3)日本の周辺で起きている事としては、ロシアの領空侵犯や海洋調査、中台問題、尖閣諸島問題、南北朝鮮統一問題などがあげられる。
(4)中国の情勢認識としては、世界の変化の中にあり、グローバル化に伴い経済的には発展しているが、軍事・安全保障の点では挑戦をしており、軍の近代化が大きな関心となっている。中国の防衛費は日本を上回り約6兆円であると公表されているが、米国はその2倍の支出を予想している。また、中国のミサイルは、米国、台湾、日本などに対してそれぞれ約30基、700基、40基ほどあると推測されており、弾道威力が強いものを保持している。
(5)ロシアの核弾頭数は1700~2200発であり、現在、数を減らすことができる範囲の中での上限であると考えられている。オバマ大統領の核ゼロ宣言はほぼ不可能に近いと考えられる。
(6)北朝鮮は総兵力数の点で軍事大国である。アフガニスタンの軍装備と近似しており、戦車、航空機の制式年数は古いものである。
(7)在韓米軍はイラク派遣などもあり、大幅に減少しているが、軍装備は優れた能力のものを保持している。また、韓国軍は約75万人ほどである。つまり、北朝鮮に比べると、この合同軍の方が能力的には優れており、はるかに強いであろうと考えられている。
(8)今までの核をもたせないという方針は失敗に終わっており、北朝鮮が核開発をしている可能性は大いにある。また、核実験を行ったと推測される。北朝鮮において核の小型化・弾頭化は現時点では行われていないが、将来的には兵器化されるであろうと推測される。現在のミサイル能力としては、ノドンが200基ほどあり、移動可能なので隠すことができる。テポドン1の飛翔距離は3200㎞ほどであり、ミサイルのコントロールはなされていると言われている。その他、テポドン2は実験段階であると考えられている。
(9)もしミサイルが発射された場合、発射された直後に撃ち落とすのは先制攻撃とみなされ、今の段階では不可能である。中間段階では、イージス艦にミサイルを積み撃ち落とすことが可能。最終段階としては、PAC-3により迎撃することとしている。

3.防衛力の在り方
(1)現在、北朝鮮の核保有宣言やミサイル実験など目に見える脅威が存在している。それに対して、一つには日米同盟の強化や在日米軍を追従させ、必要な場合に軍事作戦を支援することである。最終手段としては、自衛策としてイージス艦やPAC-3を用いてこの脅威に対抗することである。安全保障に100%という保障は想定できない。最大限の外交と軍事的努力を行うことが必要である。
(2)現大綱の見直しの考えとしては、2つあげられる。まず1つめには対日の脅威をどのように直接的に防止するか。2つめには、パートナーを増やして信頼を築き、外交で処理できるよう努力することである。これらの実現のためには、3つの努力が必要である。1つめには日本独自の努力、2つめには同盟の強化(日米同盟)、3つめには国際社会との協力が挙げられる。例えば、ジブチに展開しているEUマルフォーのような国際的な人道支援・利益の追求・多国籍軍との協力を備えた枠組みが必要である。このような重層的なネットワークなしでは、現在の安全保障は考えられない。
(3)以上のような目的と手段を組み合わせても、戦略が出ていないのが現状である。一度にハード面とソフト面、国内と海外の問題のすべてに対応するのは困難である。また、自衛隊員の数や防衛省の予算は減少しているのが現状である。
(4)現在、軍事力は何から何を守るかというだけでは説明できない。テロ対策、人道復興支援、自然災害やミサイル防衛など対処しなければならない問題の範囲は広がっている。だからこそ、軍事力の存在意義や役割を賢く考えた上で、量と質のバランスを考え、日米安保の信頼性や日本の技術力などのスマートパワーといかに組み合わせていくかが必要とされている。また外交や司法との連携を考え、国家建設のためには自衛隊や防衛省がいかに関わっていくかが課題となっている。

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<Ⅱ質疑応答>
1.Q.平和外交や核兵器の保有という選択肢があるが、日本政府(防衛省)がMD政策を推し進めた理由は何か教えて下さい。
A.1つには、この地域における安全保障の環境は悪くなっており、日米同盟だけの対応では米の核使用を想定した抑止と対処の実効性を担保しなければならない。その時、MD政策は最新のシステムであるPAC-3を保持するように、日米同盟の有効性を維持するために必要な政策としてとらえられる。また最新の兵器の保持、使用、運用、テストや実行性を確保することは、抑止を確保するためには必要なコストである。これに対して国民の支持を得る努力が必要である。核保有は最終手段であり、今ある技術力、政策手段を整え、外交を丁寧に進めることが必要であり日本らしさでもある。憲法9条を支持している日本では、国民の大半は平和的解決を望んでいることもあり、MDは日本の防衛の戦略思想には向いてないが、これを採用しないということは米国や周辺諸国からは支持されず、国際社会のレジームに反することとなる。それゆえに核開発をするのではなく、日本にできることを技術的につめていき、考えていくことが責任ある政府の対応である。

2.Q.中国の先制不使用と消極的安全保障について、南シナ海とマラッカ海峡での日本のアプローチ、NPT下での北朝鮮に対する日本のアプローチについて教えて下さい。
A.中国の核開発は約45年前に始まり、ミサイル開発は1960年代、米国を射程距離に収めようとしたのは1970年代からである。中国は米国に対する圧倒的コンプレックスから核・ミサイル開発を進めた。これは、米ソの冷戦期には中国は米国と協力する余地があったが、ソ連という脅威が無くなった今、中国が目立っている。この約30~40年の劣勢期において中国は消極的安全保障という姿勢を示したのである。また、核を保有しない国には核を使わず、先制不使用という弱者の論理を用いている。日本の国益はNPT政策の堅持である。安保理決議で北朝鮮を批判し、国際レジームに依存して日本の発言権を確保することが最適である。現在、日本はグローバルな軍事的プレゼンスを示している。日本は攻撃的パワーを用いるのではなく、地域の平和、安定性、透明性を求めることで日本のソフトパワーを確保することができる。 

3.Q.日米同盟の日本の周辺事態への対応の範囲というおのが正確には決まっていないと説明されたが、その理由は何なのか。また、周辺事態への対応の範囲を決められない理由や、決めないことによって現れるメリットはあるのか教えて下さい。
A.曖昧政策をとっているからである。これは周辺事態において、日本や米国は現状維持を求め、リスクを負わず、その現状を変える国がリスクを負うということである。例えば台湾の独立の問題において、周辺事態の地理的範囲を決めた時、日本と米国が中国を刺激することとなり、政治的に曖昧にしたほうが良いという判断からである。

吉崎知典
1985年 慶應義塾大学卒業後、1987年 慶應義塾大学大学院修士課程修了(法学修士) 。1993~4年 ロンドン大学キングスカレッジ防衛研究学部客員研究員を経て、1999年米ハドソン研究所客員研究員となる。現在、防衛省防衛研究所研究部第 5 研究室長を務められている。