[IntOrg] The UN and Japan’s diplomacy towards the UN (Mr. Kazuhiro Kuno) (10th October 2012)



2012年度法政大学法学部
「国際機構論」

■ テーマ : 「国連と日本の国連外交」
■ 講 師 : 久野 和博 様  外務省国連企画調整課長
■ 日 時 : 2012年10月10日(水)  13:30~15:00
■ 場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 307教室
■ 作成者 : 成川 由華  法政大学法学部国際政治学科2年
          本多 優子  法政大学法学部国際政治学科2年

*********************************************

<I.講義概要>

1. 国連
(1) 国連とは何か
 一言で言えば、193の主権国家から成る加盟国の集まりであり、唯一の包括的・普遍的な国際機関である。「包括的」とは、特定の目的だけではなく、子供の権利から平和と安全といった様々な国際社会の課題を扱うという意味である。また、「普遍的」とは国際社会のほとんどの国が加盟しているということである。この二つの性格を併せ持った唯一の国際機関が国連である。他の国際機関ともう一つ異なる点はそのシステムに認められる。総会や経済社会理事会といった憲章に定められた主要機関だけでなく、専門機関や国連決議により創設された基金・計画と呼ばれる国際機関が国連と密接に連携して活動している。これら専門機関や基金・計画を含めた全体を国連システムと呼ぶこともある。
(2) 国連の意思決定
国連はある問題について会議を開き、意思決定を行う。会議では経済力などに示される国力には関係なく、一国に一票が与えられている。国連の主要機関は6つあるが、特に留意すべきは安保理と総会である。安保理は、平和と安全に関わる問題を扱い、その決定は法的拘束力を持つ。一方、総会での決議には法的拘束力がない。しかし、いずれの場合においても意思決定を行うことは容易ではない。シリアでの暴力が継続している事態に対して安保理は議論したが、常任理事国各国の一部が反対した結果、合意に至らず機能不全に陥っているというケースがある。目の前に解決すべき問題があるにも関わらず、解決できないというのも、国連における現実の一側面である。
(3) 国連の軌跡
国連は国際連盟の教訓に立って二度と戦争を繰り返さないという強い政治的意思の下に設立された。設立当初、国連がこのように60年以上も長く続く機関になるとは必ずしも考えられていなかった。また、国連は、その時々の問題の解決に対応してきた結果、その性格を変化させてきた。国連創設後間もなく朝鮮戦争が勃発した際、アメリカが実質的に主導し、一部加盟国が参加する形の「国連軍」が創設された。これは国連憲章第7章に基づく軍事的強制措置ではあるが、憲章が想定した国連軍ではなかった。また、国連創設直後の中東問題に始まる地域の平和と安全に関わる問題に対処するため、冷戦という国際社会の状況の制約の下で、国連は紛争を沈静化し、その拡大を防ぐという課題に取り組んだ。のちにこれが平和維持活動(PKO)と称されることになる。PKOの活動には、憲章上の明文の根拠はなく、憲章6章の紛争の平和的解決と7章の強制措置の間に当たるものとして、6.5章と形容されることもある。60年代に入るとアジアとアフリカの植民地が独立国したことにより、国連の加盟国も増加した。これらの国々の多くは未開発国ということから、国連での議論で開発に焦点が当てられることとなまた、途上国が国連の加盟国の多数を占めることとなった。そして国連は様々な課題に取り組むこととなる。人権問題に関してはアパルトヘイトを国連で議論した結果、経済制裁を行ったことも一助となり、その排除につながった。環境については、1972年にストックホルムで国連人間環境会議が開催され、国連環境計画が創設されたほか、80年代には「持続可能な開発」概念が提唱されるなど、国際社会の共通の課題としての環境問題への世界的な取組が進んだ。90年代に入ると冷戦の終結により、国の数が増えるとともに冷戦下では顕在化しなかった民族・地域紛争が増加した。その結果、市民が紛争の犠牲になるケースが増え、難民問題も深刻化していった。このような平和と安全が脅かされる状況に対応してPKOの数も増えた。更に、PKOは、従来の紛争拡大防止という伝統的機能から紛争後の国家再建や復興などにも機能を拡げることになった。
(4) 21世紀の課題
21世紀になっても依然として環境や核の不拡散、原子力安全など国境を越える問題への対処は重要である。他方、これまでは「国内」問題とされてきた問題への国際社会の対処の必要性が重みを増している。加えて、「アラブの春」が示すようにソーシャルネットワークなど通信技術の進展の結果、一国で起きた問題が世界各地に瞬時に伝わることとなり、特に若者がこうした情報伝達の主たる担い手として登場したことにより、国家によるコントロールがかつてに比して相対化されやすくなっていることが、問題解決を複雑にしている。また、国内問題の解決に主たる責任を負う国家自身の能力、ガバナンスが不十分であるがために問題が引き起こされる状況もある。こうした「国内」問題に国連が対応していく正当性は、人権、人間の尊厳といった「普遍的な価値」に支えられている。新しい概念枠組としては、人間一人ひとりが守られ、安心に暮らせる社会を実現する「人間の安全保障」があり、また、人道に対する罪などに対して市民を保護するために適切な措置を採ることなどを内実とする「保護する責任」がある。
1) 国連改革
国連は変化する課題に対して対処能力を高めることが必要であるという文脈から、国連改革が議論されてきた。これまでに実現した成果としては、2005年に設置が決定された平和構築委員会がある。委員会は紛争後の復興や和解を達成するために加盟国に対して助言・勧告をする役割を持っている。また、人権委員会を人権理事会に格上げし、人権問題への対応を強化した。そして、開発分野、特にフィールドにおける国連システムの一貫性を強化するために、「一つの国連」が打ち出され、連携強化の取組が進められている。

2. 日本の国連外交
(1) 国連加盟へのプロセス
ポツダム宣言受諾後、日本は主権国家として国連に加盟する立場になかったが、1951年のサンフランシスコ講和会議で主権を回復し、国連加盟が日本外交の重要課題となった。しかし、国連への加盟を申請するも、ソ連の反対に阻まれ、加盟は直ちに実現せず、1956年に日ソ共同宣言でソ連との間で戦争状態を終結し、外交関係を回復して漸く日本の国連加盟は実現した。
(2) 今日の日本の国連外交
1) 国連における日本のイメージ
国連において日本は、「人間の安全保障」や「法の支配」を推進する先進民主主義国として、国連に建設的な貢献をしている国とみられている。国連への日本の貢献は、国連で働く日本人などに示される人的貢献、第2位の拠出国としての財政貢献がある。それにとどまらず、会議をリードし、決議案を提出したりするなどの知的貢献の積み重ねによる実績が、安保理の非常任理事国を10期務め、経社理では恒常的なメンバーであることに示されている。
2) 国連での野田総理の演説
日本が国連外交をどう進めようとしているかは、今年9月の国連総会一般討論演説での野田総理の演説に最もよく示されている。総理は3つの柱に言及された。第一に、目の前にある課題をその時点で解決し、次世代に持ち越さないという「未来」を慮る能力を、第二に、各国がそれぞれの利害に縛られずに共通の課題を解決する地球を俯瞰する視点を、第三に、紛争をルールに基づいて理性的に処理することの重要性を訴えられた。
3) 国連を通じた日本外交の推進
では、これまで日本が一貫して国連で取り組んでいる政策課題とは何かと言えば、大きく言って3つある。まず、軍縮外交である。核のない世界を実現していくために、唯一の戦争被爆国として究極的核廃絶を長い間訴えてきた。次に人権外交である。国連で問題国の人権問題の解決を普遍的価値に基づいて取り上げてきた。同時に二国間で対話を行い、当該国の人権の改善に向けた具体的な取組を支援してきている。第三に、脆弱国家支援、即ち、政府開発援助(ODA)である。真に困っているひとへ援助が行き届くように、人間一人ひとりに焦点を当てた援助を行い、様々な機会に他国にも同様の取組を奨励してきている。このように二国間と多国間のアプローチを組合せながら国連外交を実施してきた。

3. 日本の国連外交
(1) 国連への人的・財政的貢献
 国連機関に勤務する邦人職員は、数は少ないが質が高い。国連システム全体で約3万人の専門職員のうち邦人職員は約765人で、2.5%程度である。財政貢献は、国連分担金率の12.53%に比すると少ないという議論がある。したがって、数を増やすことが課題となる。もう一つの課題は、国際機関で意思決定をする幹部レベルを増やすことである。PKOにも自衛隊を派遣する形で人的貢献を行っている。財政貢献は国連予算については、加盟国が支払う義務がある分担金で成り立ち、通常予算とPKO予算の2つがある。かつては通常予算の方が多かったが今はPKO予算の方が3倍弱に上る。暦年で言うと8000億円、外務省の予算6000億円の1.5倍に当たる。国際機関の財政基盤には、義務である分担金だけでなく任意拠出金もある。UNDP,UNHCR,UNICEFなど基金・計画は任意拠出金で、専門機関は分担金で成り立っている。全体で見ると各国際機関の任意拠出金の総額は、国連の分担金の5倍程度に上る。更に、これ以外の財源として民間資金もある。たとえば、UNICEFの絵葉書や切手、募金箱で集まった資金の五分の一は日本ユニセフ協会の運営資金になるが、それ以外の8割はユニセフ本体に行く。ユニセフ協会と同様の仕組みとしてUNHCR協会などもある。
(2) 国際機関の邦人増施策
人的貢献の柱である邦人職員の具体的な増強の方策としては、日本政府の負担で若者に対して国際機関職員として原則2年勤務する機会を与えるJPO(Junior Professional Officer)派遣制度がある。現時点の断面でみると、約100人ほどが派遣されている。これらJPOは、原則2年のうちにしかるべきポストでの採用を目指す。国際機関では基本的に空席を見つけてそこに応募し、選考されるという選定プロセスを経て選ばれる必要があり、待っていても採用されることにはならない。
(3) PKOへの貢献
PKOは、現在、全体で16ミッションあり、日本は4ミッションに主として自衛隊員を派遣している。ハイチからは撤収が決まっており、東ティモールはPKOから政治ミッションあるいは事務所等にステータスを変える見通しである。あとはシリア(ゴラン高原)と南スーダンに自衛隊を派遣している。日本のPKOへの人的貢献は、量的には世界で34番目。先進国の中で見たときには悪くないというレベルである。
(4) 国連分担率・分担金
国連分担率は3年に一度交渉により決められており、今年が交渉年である。加盟国の合意により決まっている算定方式にしたがって、各種経済指標を基に分担率が計算される。基本的には経済力を示す国民所得(GNI)が計算のベースになるが、債務や途上国については調整メカニズムがあるため、経済規模がそのまま分担率に反映されることにはならない。日本は第二位の財政貢献国で12.53%を負担している。第一位のアメリカは上限(シーリング)が適用になるため22%である。BRICsなどの新興国の経済力が増しており、たとえば、2010年で見たときに新興国の世界経済(途上国は含めていない)に占める比率は34%だが、新興国が占める比率は上がっていくものと予想される。世界経済に占める比率(34%)に比して、新興国の国連分担率は1割強であり、経済力の観点から適正な負担割合にはなっていないという問題がある。

(本文終了)
*********************
 
<II.質疑応答>

1. 野田総理の演説
Q. ICJの強制管轄権の受諾のことだが、竹島問題について日本がICJに提訴するとしたとき韓国が拒否した。この点についてもう少し説明していただきたい。
A. 野田総理の演説の中で個別具体の話は一切していない。演説ではICJの強制管轄権を受諾していない国に受諾を呼びかけている。この呼びかけの対象に韓国は含まれる。日本は竹島についてICJに付託する提案はしたが韓国が受け入れるところにはなっていない。韓国はICJの強制管轄権を受諾していないので、韓国がICJへの付託を受け入れない限り当該問題はICJの管轄には入らない。世界全体でみると強制管轄権を受け入れている国は日本を含む67か国である。常任理事国ではイギリスのみである。
2. PKO
Q. 国連ではPKO三原則があるが日本にはPKO五原則があり、それは活動の質の向上への妨害になるのではないか。
A. 国連が日本の自衛隊の活動についてその活動上の制約のゆえに評価しないという情報に自分は接したことはない。多くの場合、国連からはPKOに対する自衛隊の貢献に感謝するというメッセージが伝わってくる。他方、PKOに参加する自衛隊の活動上の制約については、平和貢献国家によりふさわしいものにしていくという観点から政府内でも議論している。
3. 日本人職員のイメージ
Q. 日本人職員は質が高いというが具体的にどのようなところの質が高いのか
A. 日本人は真面目できちんと仕事をし、仕事の期限を守り、その中できちんとした成果を出すといった評価がよく聞かれる。
4. 日本の今後の貢献
Q. 日本の経済が縮小していくなか、今後どのような形で国連に貢献できるのか
A. 分担率が下がるからと言って国連における日本の存在感が直ちに減じるわけではない。他方、以前と比べると日本は元気ではなくなったとする向きもある。一国一票で議論している場で直接の影響が生じているわけではないが、経済力の拡大に伴って新興国の発言力が増しているとみる向きもある。日本としては軍縮外交、人権外交、脆弱国家支援をこれまでと同様に一貫性を持って進めていくことが重要であると考える。相対的に経済力が低下していく中でもこの方針を貫徹していくということである。
5. 安全保障改革
Q. 日本はお金を出している割には恩恵を受けていないのではないか。中国はあまり出していないのに常任理事国である一方日本はそうではない。このため拠出金を減らしても良いのではないか。
A. なぜ安保理改革を日本は必要だと考えているか。ご指摘の意見はまさにこの点に関わるものである。安保理改革は、日本自身の狭い意味での利益のためということではなく、日本は常任理事国として国際貢献をする準備ができており、安保理に入ることが国際社会の利益に叶うからこそその実現が求められている。その一方で、たとえば、設立時の加盟国は51か国だが今は193か国に増え、国際社会の状況も設立当初と異なる中、国連は国際社会の現実をきちんと反映していないという事実がある。国際社会の現実を反映した形で国連も変わる必要がある。残念ながら安保理改革は実現できていないが、日本は引き続きその実現に取り組んでいく。
6. 人間の安全保障決議
Q. 今般採択された人間の安全保障の総会決議に関連して特徴が2つあると思う。1つは国家主権の点を過剰に強調している点、2つ目は人間の安全保障を狭義ではなく広義的に解釈しているという点である。
1. グローバルイシューを学際的かつ超国家的に着目するという本来の人間の安全保障の目標がこの総会決議によって失われたのではないか
2. 広義的な解釈を採用したことによって狭義的なアプローチは今後どうなるのか
3. 今後日本はどういう国内外で取り組みを行っていくのか
A. 今般の人間の安全保障に関する総会決議の意義は、その定義について初めて明確な合意がなされたことにある。コンセンサスで採択されたのであるから、人間の安全保障とは何を意味するのか、というレベルでの異論は今後出なくなるはずである。これまでは人間の安全保障に懐疑的な国があったり、人間の安全保障と保護する責任や人道的な介入との関係を問題視する国もあったりしたが、それがなくなるということである。日本にとっては、国際社会で定義が明確にされたのであるから、人間の安全保障という旗を振りやすくなるというメリットがある。人間の安全保障という考え方に基づいて具体的に何をするのか、即ち、考えを行動に移す局面に入ったということである。
7. 人的貢献
Q. 拠出金を増やすよりも人的貢献に重点を置くべきではないか。またロスター登録制度について詳しく説明していただきたい
A. まず、任意拠出金で成り立つ基金・計画が国際公益の観点から役割を果たしているかどうかという点はきちんと評価されなくてはならない。その上で、基金・計画について、邦人職員増強の観点から述べれば、任意拠出金を増やすことが重要である。というのは、一つのポストを複数の候補者が争う場合、その能力が同じであれば、国際機関側は拠出金をより多く出している国の候補者を優先的に雇うであろうからである。他方、義務的拠出である分担金で成り立っている国連や専門機関については異なった状況がある。ロスター登録制度は国際機関で勤務することを目指す方々に対し、空席情報等必要かつ有益な情報を外務省国際機関人事センターが発信しているものである。本日配布した資料も参照の上、不明な点があれば同センターに連絡いただきたい。

*********************

久野 和博  (くの かずひろ)

平成1年に外務省入省され、その後、平成18年1月に在ロシア大使館参事官、平成19年6月に大臣官房総務課監察査察室長に就任。平成20年8月には大臣官房総務課沖縄事務所、平成22年8月からは現職の総合外交政策局国連企画調整課長としてご活躍されている。