2011年度法政大学法学部
「国際機構論」
■テーマ : 「国際機関の財政的基盤と資金源」
■講 師 : 狩野 明香理 氏 国連大学高等研究所職員
■日 時 : 2011年6月7日(火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 407教室
■作成者 : 丸山 小百合 法政大学法学部国際政治学科2年
飯島 瑛梨 法政大学法学部国際政治学科2年
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<I. 講義概要>
1、国際連合予算
国際連合の予算は大きく分けて、通常予算とPKO予算(現在15ミッション)に分類される。通常予算は2カ年編成となっており、2011年までの通常予算は約51.4億ドルであり、今年1年では約25億ドルである。また、PKO予算は1カ年編成であり7月から始まり、翌年の6月までであり、2010年~2011年では約78億ドルである。この通常予算は、東京都世田谷区の一般会計とほぼ同じ、PKO予算は全世界で支払われている軍事費の0.5%にすぎない。
2、予算決定
現在の国際連合予算は、人類の危機の多様化によって国際連合創設時には考えられなかったほどに、UNDPなどの機関に充てる“計画途基金”が増加している。
予算根拠は、国連憲章の第4項17条に書かれており、国連総会による採決で3分の2以上の多数決によって採択される。これは、国際連盟では全会一致でなければ予算を決定できなかった失敗経験を生かしたものである。
予算は、各部局が事務総長に概算要求を提出し、それによって事務総長が予算案を制作し、承認する。その後、行政財政問題諮問委員会(ACABQ)の審査・勧告、第五委員会にて審議・承認され、最終的に総会で採択される。予算案には、活動計画が必要であり、最終的には計画調整委員会(CPC)の全会一致によって予算上限と計画内容が決定される。
3、予算に関わる組織
予算に関わる議論は、主に“第5委員会”で行われる。第5委員会に送られた予算案などは常に全会一致で採択されなければならない。しかしこれはかなり難しいことであり、その議論の円滑化のために“行政財政問題諮問委員会”が設けられている。この委員会は、16人の個人からなり、各予算に対して厳しい審査を行う。その他には、“計画調整委員会”や各加盟国の分担金を決定する“分担金委員会”がある。
4、財源
国際連合の財源の大部分を占めているものが、分担金である。分担金は、全ての加盟国において同一のレートを採用し(OPEC)、金額はその国独自の支払い能力により選択する(WIPO)。分担金の査定は、8つの項目によって行われる。査定には過去6年と過去3年の国民総所得(GNI)の平均の平均が基準とされる。低所得国には低所得割引調整が行われ、最低0.001%は支払わなくてはならない。逆に、各国は全体の予算の22%以上は支払ってはならない。この査定方法は3年に1度総会で話し合われる。PKO予算においても、原則的には通常予算のレートが採用されている。しかし安全保障理事会常任理事国には、発展途上国のディスカウント文を負担することが義務づけられている。
5、滞納金問題
国際連合の財政難を引き起こす原因の一つとして、滞納金の問題がある。滞納の原因は経済力不足による財政的な理由、各国の財政制度の違いによる制度的な理由、国連の活動や分担率への不満からなる政治的な理由の3つに分類される。この問題については、国連憲章19条の分担金の支払い遅滞において、その国によって2年以内に支払われなければ投票権を失うという制裁が設けられている。しかし、これは常任理事国においてはあまり効力を発揮していない部分もある。
6、財政難にあたってできることとは
滞納金に対する利子投入がまず考えられる。例えばITUやUPUには利子が投入されている。しかし国連に関しては加盟国の大きな反対があるために、投入が困難である。次に分割払いの導入があるが、これにはまとまった信託が得られない点で困難である。また別途、運転資金を確保し、そこから使うことも考えられるが、どこからその運転資金を確保するのかといったことも考えなければならない。そこで一つ提案となるのが、以前から議論されてきた国際連帯税(国際課税)を徴収することで国連の財源に充てることであり、国際連帯税とは国境を越えた活動全般にかかる税で通貨取引税(トービン税)、環境税、航空券税、インターネット使用税などがある。
しかしこれに対してアメリカ合衆国は拒否権や分担金支払いを停止などで強い抵抗を示している。理由としては税金を徴収することは、世界征服、アメリカ合衆国の主権の侵害、国連に対する財政的影響力の低下につながると考え、その背景には今でも重い税金を支払っている国民にこれ以上税金をかけることは困難である、といったことがある。
7、監査
事業をおこしたり、税金をかけたりする際に、効率性・透明性・説明責任を機能させるために検査や評価を行うものである。
8、財政面からみた日本と国連
日本の分担金は、①敵国条項の存在、②常任理事国入りへの失敗、③北朝鮮核武装に対する発言力 を考えると非常に負担が大きいのではないかという認識が広まっている。実際日本は12.53%の分担金を支払っている。この分担金の支払いは国際社会における日本の存在価値として多いか少ないか。
では分担金をさほど払っていない国はどこであるか。それはBRICsの中国であり、中国の分担金は世界第9位である。中国は経済大国であるが、人口が多いといった点でこのように調整されている。しかし、BRICs諸国はほかの発展途上国とは違った調整をすべきだと考えている。
また、国連の安全保障理事会に関しては、アメリカ、西欧諸国が大きな権限を持つ一方、アジアやアフリカ諸国の権限は小さいことから、安全保障理事会では権限と責任のバランスが求められてくる。
<II. 質疑応答>
質問1:
国連の分担金の査定は、毎年更新されてきたものか、それとも64会期で初めて決められたのか。
回答1:
1946年からスタートし、3年に1度の話し合いによって分担率が決定されている。1946年当時は、ほぼGDPに沿って分担金が決められていた。
質問2:
分担金問題について、財政的な理由が挙げられているが、分担金を決める委員会において加盟国の経済事情に応じて分担率が決められているのにも拘わらず、経済事情を理由にして払わないというのはどういうことか。
回答2:
たしかに低所得国に対する対応はしているが、それでも支払えないというのはアフリカや紛争諸国の状態を考えれば致し方がないことである。しかしそれをどこの国が払うかという問題が出てくる。
質問3:
紛争や人道危機に対して国際社会では支援しているが、それに自然災害が起こった場合(これにはResponsibility to Protectが適用される)、今の財政難の中で支援は可能であるか。
回答3:
予算というものは、状況に応じて増えていくので、今後、人類の脅威を多岐に広げることで通常予算を増やしていくことは説得力のある話である。
質問4(狩野様、長谷川教授より):
国際連帯税を払うことに関して賛成か反対か。
回答4(反対の立場より):
ただでさえ日本は常任理事国に入っておらず、またアメリカに次ぐ分担金を払っているのにさらに税金を支払うというには疑問がある。分担金を支払っていない国があるのに、そこに国際課税をしても支払えない国が出てくるのではないか。
質問5:
(1)国連平和維持軍(PKF)に対する予算はどのような形で賄われているのか。
(2)国連平和維持軍の活動が長引いたとき、それが国連の予算に与える影響とは。
回答6:
(1)PKFの予算は基本的にPKOの予算から出ている。
(2)現在78億かかっていて、これはミッション毎に予算調整をしている。問題としては、国連のミッションの中には各国が賛同しないものもあり、そういうミッションの滞納問題となると政治的圧力をかけているといった現状がある。